Mr Y
Requiem
昨年、田中朋子さんのレコーディング計画が持ち上げっているのを耳にした時、何か安堵のようなものを感じたのを思い出す。この感慨は前作『SAKURARAN』からかなりの年数が経過していたということよりも、残すべきを残しておいて欲しいという思いが繋がったことによるものだ。収録されているのは、全て朋子さんのオリジナルである。取って置きの曲が順番待ちしているだろうから、厳選するのは一苦労だったと想像する。いよいよ本作『VEGA』を聴いてみた。ホットでスリリングな演奏もあるのだが、それですらも、しみじみ感が押し寄せて来た。思い返すと、朋子さんを初めて聴いてから30年を優に超えてしまっている。こういう経過から様々な演奏光景が去来してしまい、感傷を上手く制止できなくなってしまった。くじけずに更に何度か聴き進めていくと、これは彼女のこれまでの楽曲の集大成であるという思いが募ってきた。田中朋子さんの自作スタンダード集と言い換えてもよい。筆者は更地を見て何が建っていたのか思い出せない程度の少量メモリーしか持ち合わせていないが、朋子さんの曲はおいそれと忘れられるものではない。少し個人的な思いに引きずられてしまっている。しかし本文のミッションは、飽くまでリリース記念に寄せたものの筈だ。従って本作について語らなければならない。略説してみよう。先ずは管2人を入れた意欲的なsextet編成であることが注目される。奥野はアルト・フルート・バリトンの3管を駆使していて、菅原のトロンボーンとうねりながら調和していくところは聴き応えがあり、この編成のワイドな展開に十分貢献している。重鎮岡本さんはこの日に懸ける意気込みが並々ならぬようで、時折アウトしてはセーフをもぎ取る執念のプレイを披露している。気鋭の斎藤はベイシストとして抜群のバランス感覚があり、ここでもクオリティーの高さを如何なく発揮していて頼もしい。そして今や要人となっている一哲の臨機応変な対応がサウンドを一段二段底上げしていっているといった具合である。これはライブを収録(@COO)したものなので、会場の雰囲気やメンバーがすぐそこで互角に渡り合っている生々しい様子が伝わってくる。動に静にこの記念すべき一枚には余分な演出など見当たらないない。それは真実に近づこうとする朋子さんの一念の強さによるものに違いない。本作を何と称したらよいか。候補多数のところ独断で「納得盤」としておきたい。朋子さん、まだまだやってよ。
(M・Flanagan)
master’s comment notice
牛さんの紹介文がそろった。試聴可能となるのは3月初旬の予定である。トピック欄でも紹介しているが地方発送も承っている。HPライブ予約欄から申込みいただきたい¥3000