すべらない話

週に二度ほど母親のところに行って世間話をしてくる。昨日行ってきた。札幌はいっきに雪が積もり、それが固まり道路は誰かの頭のようにツルツルであった。母親は近くのスーパーに買い物に行った帰り、おぼつかない足取りで杖を突きながら道路を渡っていたら、ある車が止まって運転手さんが下りてきて手を貸してくれたという。今時そういう人もいるのだなと思った。その帰り歩いていると僕の後ろの方で「あーっ」と言う声が聞こえた。女性の人が滑って転んでいた。僕は半町ほど引き返し、「大丈夫ですか」と声をかけ起き上がるのを手助けした。普段だったらわざわざ引き返さなかったかもしれない。そうさせたのは多分見知らぬ運転手さんだ。同じ日自宅にのすぐ近くを犬が散歩していた。道路を渡る時その犬が滑って転んだ。「あれっ、四本脚があっても転ぶんだ」と思った。犬は素早く立ち上がるとチラッと僕の方を見た「見たな」と言う表情だった。犬は一年中夏靴だもんあと考えながら歩いていると同じ場所で滑ってしまった。「あーっ」と言う声が出た。犬は振り返ると小声で「ワン」と吠えた。訳すと「分かったか、この禿親父」という意味だ。
10年ほど昔の話だ。冬に池田篤に来てもらった。そこから遡る数年前池田は真冬に夏靴で北海道に来て滑って転んであばら骨にひびが入ったことがある。そういうこともあるのでライブの前に冬靴を買いに行った。「篤ちゃん。これでもう安心だね」とか言いながらホテルまで送り届けた。僕は店を開けるので一足先に帰った。すると送り届けてくれた運転手が「大変です。池田さん滑って、頭から血を流してます」と駆け込んできた。転ぶって言ったって車を止めたところからホテルのドアーまで数メートルしかないのである。カットバンを張ったがサックスを吹くと血が噴き出してくる。僕は鬼のように「ライブ終わるまで我慢できない?」と言った「無理です」と言われた。そりゃそうだ。救急病院に連れていったがその道すがら「何で、店で靴を履き替えなかったのだ」と言う疑問がふつふつと湧いてきた