目撃者

近所のスーパーに買い物に行っていた。スーパーの係員と思しき人が来店者の自転車の籠の中をチェックしていた。その係員二人は店内に入るとある老夫人に「お話があります。一緒に来てください」と事務所の方に連れ去った。万引きである。そして、その老婦人はある常連客の母親であった。常連客は数年前に病死したと風の噂で聞いた。我儘し放題であったが憎めないに人間でもあった。子供の頃から食事は自分だけ好きなメニューで家族とは違うものを食べていたと豪語していた。母親も嬉々としてそうしていたという。その常連客が40歳ころだったと思う。よく僕の店の前で待っていて「今日、行くと思いますので渡してください」とデパートで買ってきた総菜を渡された。一つは僕にという事であった。その常連客Xは飲みすぎると翌日遅刻して叱責されるという行為を繰り返していた。危ないと思う日はモーニングコールを掛けるというチャージは含まれないサービスもしていた。Xはある時からパタッと来なくなった。会社を首になったという噂を聞いた。最後に来た時には杖をついてきた。二年間家から一歩も出なかったから足が弱ったとのことだ。タバコは母親に買いに行かせたという。
「今日は付けでいい」
「いいよ」来るのは最後と言う予感がした。
ボウモアを何杯か飲んでタクシーで帰っていった。
亡くなったと聞いた時はいたたまれなくなった。
溺愛した息子が亡くなったせいかは判らないが生きる指針を失った母親の姿を目撃してしまったのはもっと居た堪れなかった。