3月16日

母親が一泊していった。一週間に一度風呂に入りに来る。パーキンソン病で足が弱り高い湯舟が跨げないからだ。バスで来ることは難しくなり今ではタクシーで来る。玄関までの階段20段ほどをやっとのことで登ってくる。僕は荷物は持つが上るのには手を貸さない。玄関に入ると誰に向かってというわけでもなく「お邪魔しますよ」と言って頭をぺこっと下げるのである。今年で91歳になった。一昨年の地震で倒れた仏壇に挟まれ右手を骨折した。利き手が不自由なのだが毎回漬物ぐらいは・・・と言って持ってくる。来た日の夕食と次の日の朝食を食べて帰っていく。いつも食べているものを作るだけであるが品数だけはそこそこある。それが母親にとっては御馳走と映るらしい。
「御馳走だね・・いただきます」と言って手を合わせる。それからルーティン化された相撲の所作のように味噌汁を一口飲みご飯を一口食べる。雑談をしながら食べるのであるが僕は聞き役に回る。最近よく出る話は桑田真澄の息子の話。確か欧米人ぽく見せるルックスで売っている何の芸もないタレントだ。母親もそう思っているらしい。「長嶋一茂と一緒だ」と言っている。ちゃんとカテゴライズできているので頭はまだボケていない。食事も残さず食べる。朝寝れたかと聞くとお風呂で温まったのでぐっすり眠れたという。
食べて眠れればしばらくは大丈夫だ。
時節柄コロナの話題にもなるが店が大変なことは言わず明るい話題だけを言う。
「昨日お客さんがアルコール消毒液送ってくれたよ」
「そうかい、もう安心だね」
本当に安心になってくる