日本映画探訪記その7 野火

8月には戦争映画を見て確認したいことが有る。戦争映画はどこを切り取るかによってアクション映画にも悲劇にも喜劇にもロマンスにも政治ドラマにもなりえる。塚本晋也監督の「野火」と松林宗恵監督の「連合艦隊」を対比しながら考えてみたい。
「野火」は大岡昇平の小説が原作でフィリピンの傷病残留兵の物語である。戦闘らしき戦闘はほとんどない中での人間の在り方を問ている。余情的な映像は一切ない。これでもかこれでもかと凄惨は場面が続く。食事前に見るとしばらくは食事がのどを通らないかもしれない。だが見たほうが良い映画である。この映画を見ると命を失った兵士を英霊と呼ぶことがいかにそぐわないかそして残酷なことが分かる。英霊と祭り上げることは当時の精神文化を継承する行為になる。
「連合艦隊」は東宝が1981年に制作した戦争大作で丹波哲郎、森繁久彌、小林桂樹、鶴田浩二など当時の大スターが総出演している。ストーリーは真珠湾攻撃の成功、ミッドウエィ海戦の敗北、レイテ沖海戦、沖縄決戦前の戦艦大和の撃沈と進む。戦争映画は出演者も多くなり制作費もかさむ。東宝はゴジラを作った会社であり特撮には自信がある。戦艦大和を20分の1のサイズで実際大和を作った造船所に作らせた。だから戦闘シーンが威風堂々としたものに見えてくる。アクション映画としての戦争映画の一面である。監督の松林と脚本の須藤勝彌も海軍出身であるので生半可な映画には仕上げていない。同僚たちがどういう思いで戦っていたかを映画人として伝えることが使命だと考えていた。最後の場面で大和は撃沈される。バックには谷村新司のバラード「群青」が流れている。大和には財津一郎扮する航海士の曹長が乗船している。それを見届けるかのように一機の爆撃機が飛んでいく。特攻に向かう息子の中井貴一が搭乗している。「群青」の間奏の時、中井の語りが入る。
「お父様、ちょっとだけ長生きすることで最後の親孝行ができました。お姉さんお母さま、お達者で」
もう涙ものである。情話としても完璧である。だが通奏低音として流れているのは反戦であると思う。
大島渚監督はどういう視点でこの映画を見たかは分からないが「連合艦隊」に出た役者は絶対使わないと言って坂本龍一、北野武、デビットボウイを使って「戦場のメリークリスマス」を制作した。
クリント・イーストウッド曰く
「戦争を美しく語る者を信用するな。彼らは決まって戦場にいなかった者なのだから」