井上銘(g)魚返明未(p)三嶋大輝(b)竹村一哲(ds)
待望のバンドの登場である。とりわけこのメンバーの中で初のナマ聴きとなる井上の来場に並々ならぬ期待を寄せてきた。そのことは若井俊也を通じて聞いていると井上から知らされた。気分が盛り上がらないはずがない。ゆえに前がかりの筆者にとって渋く「ブルー・イン・グリーン」からスタートしたのは意外だったが、井上の溜めのあるフレーズは、この曲の根幹に潜む魔力のようなものを十分に引き出していた。1日目と2日目はほぼ同一の選曲だったが、2日目のこの曲は後ろがフリー化する中で、ギターだけが旋律の手綱を離さず難所を渡り切ったようなタフな演奏になっていた。というように同一曲に別の表情を付けているので、全く飽きることの無く2日間が過ぎて行った。従ってこれ以上曲に解説を加えることは、繰り返しになるので良策とは言えない。ここでこの日のメンバーを簡単に覗き見ることにしよう。井上は初めてのレイジーバードをドアの外から眺めて、“名演が生まれそうな店ですね”と言った。バレてしまうが、“銘演”によってそれは本当になって行くのである。ディストーションやピックで弦を擦るなどの技を駆使していたが、それは演奏を高次に引き上げる抜群の効果を体感させるものであった。高音部でこれをやられると大量のワサビが鼻から脳天に突き抜けるようなマヒ状態に陥ってしまった。技術もオリジナリティーも兼ね備えている彼は、逸材と言うにはそれを大きく飛び越えている。LBに名演を残して逝った津村和彦を想い出した。魚返は腕が立つことは重々承知していたが、どちらかと言えばリリカル派と思っていた。ところがどっこい、このライブではとんでもないグルーブを何度も発散させており、彼の異様な一面を思い知らされた。魚返の自作曲のタイトルは一風変わっていて“うっ?”と思わせるものがある。今日の魚返のパフォーマンスを彼流に言うと“熱く凍らせる”だ。三嶋が2年余り前に初登場した時は、可能性を感じたのでもっと出て来るなと思った。余り時は経過していないが、ここに来て一気に表舞台に駆け上って来た。演奏中、笑みを絶すことはなく、本人によれば、「やっていて楽しくてしょうがない」とこぼしたのも頷ける。一哲には色々な思いがある。十代から「一哲凄い」の評判をとってきた。反論の余地はなかったが、少々違和感を持ったこともあった。何故なら「凄い」で終わってはならないと感じていたからだ。最近の一哲は筆者が思っていたとおり“ビヨンド・凄い”になって来た感がある。出したパスは完璧につながり、打ったシュートは全部決まる。この二日間で彼が今やりたいことを実現しているのがこのバンドだと強く確信した。よくぞやってくれた!一哲、有難う!!冒頭以外の演奏曲は、「スパイラル・ダンス」、「A」、「ロロ」、「モズ」、「シャイニング・ブルー」、「バキヤオン」、「ロスト・ヴィジョンズ」など。書き留めておきたいことはもっとあるが、それは次回来た時に譲る。
かつてダイア・ストレイツ(Dire Straits)というRockバンドがあった。そのバンド名は“苦境”を意味する。いま多くの人々がそれに晒されている。不要不急を重要緊急に読み替えなければ、ライブに行けない窮屈さだ。こんなご時世にも拘わらず、大盛況のライブとなった。竹村一哲アメイジング・バンドが引き出した必然だ。Jazzを取り巻くダイア・ストレイツからの脱出を心から祈ろうではないか。
(M・Flanagan)