新譜紹介 松本治feat.大野えり『Duke On The Winds』


 まず告白しておく。エリントンの楽曲を収めた作品は数多くあるが、ここに紹介するアルバムのような演奏集は身に覚え、いや耳に覚えがない。しかし絶え間なくエリントン感に溢れたものとなっているので、個人的な聴き歴に照らし、これまでにないアプローチが意図されたと推察しなくてはいけない。編成は管楽器(Wind)6名とVocal(大野えり)&Bass(米木康志)で、それを指揮しているのが松本治氏だ。ご存知のとおり大野えりは、その歌唱表現力において群を抜いたシンガーである。だが、その事を軸にしてこのアルバムを聴くと、聴き誤るように思う。ここにはVocalを如何に際立たせるかとういう既定の方法論が持ち込まれていないため、この6管はVocalを盛り立てることを目的としたアンサンブルに終始することにはなっていない。それどころか、6管の調和の中で夫々の管奏者が真摯に挑発していくバリエーションが凄まじく、それだけでも聴き応え十分だ。そこに参入する 大野えりは、自己主張を抑制し、管セクションとの融合を徹底的に追求している。そのことが逆に彼女の存在感を高めているという理解も成り立つだろう。このアルバムを数度聴き終えて、少し呆気にとられてしまっているのを感じたので、ためらうことなく1930年代のエリントンを聴き直してみることにした。古きエリントンの神のみえざる手は2000年代の今日にあっても、音楽の可能性に対する影響力を行使し続けているという感慨が湧いて来た。この作品『Duke On The Winds』は高度に設計されていると同時に斬新さが満載されており、エリントン音楽から引き出された今日的到達点を端的に示すものであるということを結論としよう。驚きの本歌取りアルバムが誕生したものだ。
(JAZZ放談員)
master’s comment notice
盟友米木から送られてきたアルバムである。松本のアレンジが素晴らしいと米木には伝えた。エリントンの音楽が初期のもであっても印象派の響きまで内包する音楽であったと再認識させられるつくりになっている。牛さんの評論がアルバムくらい素晴らしい。