加藤和彦のドキュメント映画が一部のフアンの間で評判になっている。Youtubeでサディステイックミカバンドをやたら勧めてくるのはそのせいかもしれない。加藤はフオーククルセイダースを活動の原点としておりそのレパトリー「イムジン川」にはフォークあがりの僕もお世話になった。だが大ヒット曲「帰ってきた酔っ払い」のような曲は苦手であった。というより嫌いである。
その日は大石とナミさんのDUOの日であった。席は予約で大体埋まっていた。見知らぬ客が入ってきた。酔っぱらいには見えなかったが腐りかけの鰯の目をした客で陰鬱なデミニッシュスケールの雰囲気を醸し出していた。予約はあるかと聞くと「ない」という。その日は鯛の尾頭付きの上品な客で埋まっていたが鰯を断るのは差別につながる。カウンターの右から2番目の席に座ってもらった。なんとなく挙動不審の感があるのでバイトには目を離すなと申し伝えた。演奏中体が左右に揺れてきた。ビールをひっり返されると困るのでパソコンを隣の席から非難させた。途中でウトウトしてきたようである。演奏中の「ネテルティティ」は雰囲気が悪くなるのでちょっと「マイルス」ではあるが先日来た「馬鹿女」よりは罪が軽い。
そうこうしているうちに体が前後に揺れてきて後ろにひっくり返りそうになった。最後尾の椅子席にいた僕は後ろから抱きかかえ事なきを得た。そろそろ「小倉生まれの玄界灘」と思い帰るよう促した。割とすんなりしたがってくれた。こういう時いくら貰うかに迷う。バイトの石川は正規の金額を告げた。難波の商人になり切れない僕は飲み代だけで良いと訂正した。ところが財布が財布がいつまでたっても見つからない。バックには大石の美しいピアノが流れている。石川が「外でやりましょう」と言った。好判断であった。外でリックから入っている物を一つずつ出してもらうと奥から財布が出てきた。この光景を通りがかりの人が見たら二人がかりで酔っぱらいをカツアゲしているように見えたかもしれない。時々ある無銭飲食でなくてよかった。今まで3度ほど警察を呼んだことがあるがこの手で無銭飲食を重ねる確信犯もいるのである。インターバルの時間に外で涼んでいると先ほどの客が向かいのクラブに入っていく。帰してから30分は経っている。その間飲める所を探していたのだろう。向かいの店は24条界隈では1,2,を争う高級店である。ちらっと見えた財布の中身では絶対に払えない。どのみち警察を呼ばれることになるだろうと思っていたらすぐ追い出されて出てきた。クラブ夢幻はセキュリティがしっかりしている。
それから1時間は経過し演奏が終わり打ち上げで盛り上がっていた。「一人ですが良いですか」と入ってくる客が来た。先ほどの客である。話し方が最初に来た時よりシャキとしている。多分どこの店にも入れなかったのだろう。「さっき来たよ」というと悲しげな表情を浮かべすごすご帰っていった。暇なとき来てくれたら話聞くよ・・・。