松原衣里(vo)朝川繁樹(p)柳真也(b)伊藤宏樹(ds)、スペシャル・ゲスト 畑ひろし(g)
かなり前のことだが、廃刊になった「スウィング・ジャーナル」誌に畑のデビューCDが紹介されていて、入手したところ腕の立つ未知のギタリストがいるものだと思ったことを覚えている。このライブに来た動機は畑を聴くためだ。予想通り、ソロにバッキングに淀みなくスウィングする見事な演奏を披露して頂いた。なお、本日の段階で松原のことは全く知らない。最初の2曲「ステラ・バイ・スターライト」、「オーニソロジー」はインスト演奏だったが所期の目的は達成できそうだと感じていたところで、3曲目から初めて聴く松原が登場した。“つれなくしないで”が邦訳の「ミーン・トゥ・ミー」。いきなり“うぉっ”と思った。太く柔らかい声は天性のものに違いない。1stは「ワン・ノート・サンバ」、「ユードゥ・ビー・ソ・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」、「ア・タイム・フォー・ラブ」、「ジス・キャント・ビー・ラブ」と続いて行くが、この人は徹底的に自分の天性を活かす鍛錬を積んでいるのだろうという印象を持った。2ndもボーカル抜きの「ラブ・フォー・セイル」から始まり、2曲目から再びボーカルが入る。「アワ・ラブ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」、「ウェイブ」で会場の秩序を整え、そのあと壊しにかかる。ど・ブルースの「サムワン・エルス・イズ・ステッピン・イン」を思いっきりシャウト。放蕩男に対する女の怒りが爆発。客が内に潜めているウズウズした感覚を一気に引っ張り出して見せた。一転、次はシンプルなギターのイントロに乗せて「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。誰もが六十になったらルイ・アームストロングのように歌いたいと願っている。この曲はそういう曲だ。そう言えば、わが国のリーディング・ボーカリストの大野エリさんも近作で歌っていたのを思い出す。最後は「アンソロポロジー」で、アタマで同じコード進行の「アイ・ガッタ・リズム」をワンコーラス入れるサービスがあり、ごっつぁんでした。アンコールは賑やかに「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」。
筆者はボーカルに明るくないので、松原がどのような位置にいるのか分からない。敢えて感想を言うならば、ボーカルの新館には実力者がひしめいている、彼女はそこには居ないかもしれないが、別館では間違いなく女王の座を争っているのではないか。イージーな設問に恥じらうが、誰を隠そう松原こそ声も見た目もキャノンボール、圧巻のライブだった。
(M・Flanagan)