2024.4.4 ~ 20周年記念LIVEの快楽演


 Lazybird 20周年の記念を前に思いだしたことがあった。一つは名演の数々を差し置いて開業前の内装を拝見したときのことだった。その時点では前のテナントの名残があり、現在あるカウンターや椅子・テーブルは未だなく、壁が斜めになっている箇所(現在のドラム・セットのあたり)を見て、何がどう設置されるのだろうかと気を巡らせていたこと。二つ目は、晴れて工事が終了して暫くの後、同時営業していた隣接ビルのGROOVYを閉じてLAZY一本に統合するに際し、ボランティア数名で命のレコード・CDを一斉に移し替えすることになるのだが、作業段取のリハに真面目さを欠く人物がいて、本ちゃんで所定箇所に配置されず大顰蹙となる顛末があったことだ。1年を20回転させた歳月は、それを笑える想い出に変容させている。番外エピソードに時の流れを感じながら本論に入いろう。記念LIVEは初日から一人増え、二人増えと厚みを加えながら、来つつ去りつつの終盤は札幌の中核連合との手合わせとなっていった。これは1年のブッキングを短期間に凝縮したものと言えるものだ。因みに東京でも実現できない編成がLAZYで起こってしまうのだとミュージシャンが口を揃える。つまり今回も異例が規則になっていたのだった。
4.4 壺阪健登(p)楠井五月(b)本田珠也(ds)、4.5 プラス鈴木央紹
 両日ともに壺阪仕切りだ。このメンバーの中だと彼は新世代に属する。普通の実社会なら若手に対し「お前にはまだ早い」的な空気が支配的であろうが、音楽では相互にインスパイアしていく度合いがその価値を決定づける。まずはキーマン壺阪がどう持って行くのか楽しみだ。予め選曲の構成をお知らせすると、壺阪のオリジナルとスタンダードなどが半々となっていた。オリジナル曲の核心は自作であるという事実よりも、独創性の「有無」によって真価が決定されるだろう。とすれば、壺阪の曲は「有」の側にあるだろう。それをプレイとどうリンクさせるのかが、普段にない編成での彼に課せられたミッションだ。筆者は壺阪が来た時はほぼ聴いてきた。その延長線上に今日もあるのだが、彼の躍動感が作りだす”うねり”に巻き込まれて、じっとしてはいられない状態を再体験できたことは報告しておきたい。他の人は壺阪をどう感じているのだろうか。奇しくも横に座っていた旦那さんが「初めて聴いたけど、藤井聡太のようだ」と語りかけてきた。超賛辞と受け止めるしかないだろう。演奏時間が押してしまうことは想定内だったが、”二十一世紀旗手”にバラードがもう一曲欲しかったと次回に向けておねだりしておく。他のメンバーについて触れておこう。楠井を初めて聴いたのは数年前にピアノとのDUOでやって来たときだった。その超絶技巧に細い目が丸くなった。だが超絶過ぎて、歌っている部分が上手く捉えられなかった思いがある。その後聴く機会を重ねにつれ見晴らしが良くなってきたのに気づく。それは単なる耳慣れによるものではないことを言っておきたい。今に始まったことではないが、アルコを入れるタイミングと音色にはハッとさせられたな。続いて本田珠也、先ごろホーム・ページに掲載された「わが青春の10枚」を読んでいると、彼が如何に多様な音楽に接し、課題に向き合ってきたのかが秘話を通じて伝わってきた。とかく気丈さ一点張りと思われがちな彼の演奏家像は、時として歩を休めながら随分思案してきたことが分かる。珠也が発する強さと繊細さはA面とB面の関係のように一つの作品になっているのだろう。彼の持論とする和ジャズの実現に立ち向かう姿は、目の前の感動劇そのものに映る。何故か分からないが「新しいことをやるには、習い覚えたことを忘れてしまうことだ」と含みのある発言をしていた洋輔さんを思い浮かべていた。いつもながら8系の音出しにブルっとした。彼は記念事業に欠かせない。珠也の来年今頃のスケジュール調整を急いで欲しいものだ。そして最後に駆けつけてきた鈴木央紹。意表を突かれたのは、これまで耳にしたことのないアブストラクトに爆走する演奏があった。本人は「なんちゃってフリー」と言っていたが、きっちりコントロールされていたのは流石だ。それはさておき、彼の演奏を聴きながら思っていることがある。彼の信条は曲を作った人に恥じない演奏を心がけるということだ。この自己約束こそ彼の演奏の深みと通底している。絶えずそれを実践し続けていることに真の実力というものを感じる。上っ面と無縁の地平は一体どこまで続くのだろう。気になって終演後、本人に確認したところ今年LAZYでのブッキングはないと言っていた。残念なことだ。では演奏曲をお知らせする。4/4「Stella By Star Light」、「Isolation」、「暮らすよろこび」、「Smoke Gets In Your Eyes」、「子どもの木」、「Quiet Moment」、「It’s Easy To Remember」、「Bye-Ya」、「Four In One」、「Little Girl Blue」など,4/5「Time After Time」、「Never Let Me Go」「酒とバラの日々」など。
 神妙な面持ちで大区切りのライブを振り返ってきたが、ようやく頭がほぐれて来た。これだけのメンバーが結集するとレイジーの敷居が高くなる。実際の話、油断のあまり入り口で躓いてしまったが、幸いマスターよろしくケガなく良かったわい。それはさて置き、4/7の里奈3+珠也+鈴木と4/9の鹿川3+鈴木を聴いて筆者のお勤めは終了した。なお、重責を担った壺阪が7月末に小曽根真氏の企画によるピアノの競演が決定しているので(@キタラ大!ホール)、熱心なファンと中途半端に多忙な人は是非ともキタラで壺阪の雄姿を御覧あれ。もう一つ、数日前に鈴木は今年のブッキング未定と言っていたのだが、最終日に8月の再登場があることが判明した。こちらの方は多忙を極めていても、目標を外すことのないよう覚悟のほどを。LAZY20周年、誰しも同じだけ年齢が嵩むことになる。この度のような快楽演に巡り合うと、人生Warm馬齢を重ねていてもムダなことばかりではないと思うのだ。
(M・Flanagan)