2019.7.13 鈴木央紹 Favouritesの頭金

鈴木央紹(ts、ss)宮川純(org)原大力(ds)
 ごく最近リリースされたこのトリオによる「Favourites」。まさにスタジオからここに直行のようなものだ。タイトル名からお気に入りを選曲したと想像できる。それよりも何よりも、今回の目玉は、オルガン入りということに尽きる。オルガンと言えば、突出してジミー・スミスが有名なように思う。これは彼の功績のほかにオルガニストが少数ないということの裏返しでもある。よもやま話は程々に会場の中に入ってみよう。音だしは鈴木の独奏によるイントロからだ。オルガンが何処からどう絡んでくるのか。固唾を呑む間が続く。本当はこの楽器、ソウルフルかつダイナミックなグルーヴが魅力なのだが、多分、ナマでは初めて聴く人が多いだろうから、この雰囲気もやむを得ない。テーマに入る段でオルガンとドラムが静かに寄り添ってきた。「ウィッチ・クラフト」、魔術の始まりだ。この演奏は後の演奏と通底する。例によって聴きどころである鈴木独壇場の高難度フレーズのスムーズなまとめと、鈴木ソロの後に回って来る宮川のベースとメロディーが合成されたアドリブに間髪入れず原が乗っかって来る。オルガンとドラムの並奏は何度も提示されたが、これが誠にスリリングだ。全編をまとめると、鈴木の圧倒的演奏力と宮川の時に地を這い時に中空を駆け回る表情豊かなプレイ、そして原の真骨頂である丁々発止に巻き込むノリが少人数編成においてひと際要求される連帯バランスを見事に体現していた。スローな演奏においてもこれは何ら揺るぎなく、目の離せないトリオの出現、新たな発見サックだ。他の曲は、「ザ・デューク」、「ユーヴ・チェンジド」、「リメンバー」、「ホエア・オア・ホエン」、「アイ・シュッド・ケア」、「エヴリータイム・ウイ・セイ・グッバイ」、「(スタンダード)」、アンコールは「ムーン・リバー」。CDと外の曲が半々ぐらい。
 このライブを「Favouritesの頭金」と名付けた。サウンドに未来的なものを感じてしまったので、今後もそれなりの負担を覚悟することになりそうなのだ。いずれにせよSomething Elseなトリオのオルガンナイザー鈴木に感服する。
(M・Flanagan)