大口純一郎(p)米木康志(b)
忘れられないライヴはそれなりの数に昇るものだ。10年近く前だっただろう、コルトレーンやエリントンの曲を並べた両者の丁々発止は忘れがたい。以後、大口さんの演奏には極力足を運んできた。大口さんがブラジル音楽に造詣が深いことはつとに知られるところであるが、本人によると、発掘しようとすれば探し当てられる多様な音楽の宝庫がブラジルであるそうだ。そのためか、大口さんから浮遊感やある種の屈折感といったブラジルもの特有のフレーバーを感ずることが出来る。その一方で、鳴りに鳴るスイング感を始めバラードの沈んだ味わいなど聴きどころ満載なのだが、分けても短めのフレーズにハッとするような瞬間が幾つも仕込まれているあたりは堪らない。よく知られた曲も多く採り上げられていたが、いずれも大口さん流の筆跡でサインしているものばかりだ。月並みに言えば両者は共演歴の長い重鎮である。年齢とは避けようもなく若さを削る月日のことである。それを代償に形成される質感をキャリアというのだが、くぐるものをくぐった演奏家を目の当たりにすると、これまでの両者は真摯な交遊録を綴りながら、こん日のステージを築き上げたことがよく分かる。後で聞くと、今回は決め事によらず自由にやろうというのが、決め事であったらしい。かつて“ヤバイ”という言葉は好ましくない状況で発せられていたが、今では肯定的タイミングで用いられている。ちゃっかり嵌めれば、このスリリングなライブはヤバイということになる。薬師丸ひろこ曰く、快感!だ。演奏曲は「ステラ・バイ・スター・ライト」、「エヴィデンス」、「(カーラおばさん風S・スワローの曲)」、「プレリュード24番(仮題)」、「マイルス・アヘッド」、「マイナー・コラージュ」、「ニュー・ムーン」、「イマージン」、「朝日の如くさわやかに」、「ハイ・フライ」、「スインギン・アット・ザ・ヘヴン」、「イスパファン」、「アグリー・ビューティー」、「ミスター・シムズ」、「タイム・リメンバードゥ」、「ザ・プロフェット」、「ルビー・マイ・ディア」、「クリス・クロス」、「ネイチャー・ボーイ」、「ニンニクのスープ」、「アイ・ラヴ・ユー・ポギー」。
高級数の子とは、しっかりしたツブとコシの強さが二大要素である。それを噛みしめた時の食感は何ものにも代え難い。今回ピアノとベースという二大要素によって、余すことなくその満足を得ることができた。因みに筆者は高級数の子を食べたことがない。
(M・Flanagan)