2024.11.後期 ライブ三様



 短期間で三つの放熱ライブ、冷めないうちに箸をつけておこう。
11.22 加藤友彦トリオ 加藤友彦(p)高橋陸(b)柳沼佑育(ds)
 あれは3年前、喝采に至る経緯を思い出す。「トリオで思いつく最高のメンバーを連れてこい」、レイジーが三嶋(b)に出した宿題の答えが加藤と柳沼だったのである。一方、陸はおよそ10年振りだという。今や名の通った三人であるが、柳沼に至っては雨後のタケノコ状態で来演していて、支持率の勢い侮れないほどになっている。今回は現段階での彼らをファクト・チェックしようという態勢で聴いた。加藤には小気味のよいプレイをするという印象を持ってきた。ド派手なことに打って出ないが、それが趣味の良い演奏を可能にしているように思う。一聴マイペースに終始しているようで、進むにつれて如何に彼が多彩なスパイスの持ち主であるに気づかされる。珍しくエルモ・ホープの曲が採り上げられたので、家でホープのレコードを引っ張り出してみた。加藤は幾分か影響を受けているのかも。ベースの陸は多分初聴きになる(と思う)。従ってこのベースを最も注視した。彼はディテイルに拘泥されるようなタイプではなく、大きなノリに集中力を注ぎ込んでいるという見方を筆者はした。何でもヘイデンがお気に入りらしい。今日のところは深み追求の同盟員と判定しておこう。柳沼は相変わらずいいところで効果的なパンチを決め、トータルにしなやかだ。ツボを押さえるに長けたこのドラマーは、我らが近所のフィリー・ジョーなのである。なお、ファクト・チェックは道半ばにつき先延ばし。演奏曲は「Martha’s Prize」、「The Dolphin」、「雨上がり(陸オリジナル)」、「All Too Soon」、「In Walked Bud」、「Heren’s Song」、「Bellarosa」、「Black And Tan Fantasy」、「The Ballad Of The Sad Young Men」、「Cheek To Cheek」、「Too Late Now」。
11.24 松島啓之カルテット 松島啓之(tp)加藤友彦(p)高橋陸(b)柳沼佑育(ds)
 毎年この時期の寒さを押し戻してくれるのが松島だ。彼が繰り出す躍動感がそうさせるのである。トランペットはジャズの歴史を彩どって来た花形楽器だが、この楽器はリズム隊のようなライブの常備薬と異なり、個人的には聴くことが意外に少ない。その意味からも松島には有難みを感じている。いつもの通りオープニングから突き刺し、そのまま急走していくところがたまらまい。かくしてジャズ・メッセンジャー松島に私たちは一息で「殺られる」のだ。アップテンポの曲には、ハード・バップの香り漂うが、ひたすら根性で押し切るようなものとは異なる良質な熱気がある。こうなると、浮かぬ気分のピープルをも上機嫌にさせてしまうに違いない。選曲の流れの中で飛び飛びに繰り入れられるバラードがはどうだろう。私たちにはラブ・ソングをモチーフとすることの多いバラードを深刻に聴かねばならないと思い込む一面がある。松島の懐深い心技は、そのそうした頑さを解きほぐす趣にこと欠かない。”さすがの松っちゃん”だ。演奏曲は「Just Because」、「Miles Ahead」、「Short Spring」、「Darn That Dream」、「Just At The Moment」、「East Thirty-second」、「Eluma(陸オリジナル)」、「Alone Together」、「Skylark」、「Chimes」、「All The Things You Are」。この日は日曜日、場内は”サンデイ・ナイト・フィーバー”に湧いたが、松島が帰京したいま、案の定寒気が強まってきた。
11.25里菜4±のクインテット
松島啓之(tp)菅原昇司(tb)本山禎朗(p)斎藤里菜(b)柳沼佑育(ds)
 管のアンサンブルは実に気持ちがよい。ところ狭しとフロントの二人が牽引していくのだが、このスリルと寛ぎはこっちの気分を幅広にさせてくれる。上等な小部屋も良いが、こうした広間に通されるのも悪かろう筈がない。管の重奏はぶ厚く、ライブならではの直接体感が聴き手を揺すりつける。演奏全般を通じて感じていたことがある。札幌にいれば何時でも地元陣は聴けるなどと呑気な構えをしていてはいけない。とりわけこの日は、理想的なリアル本山を目撃した。ここら辺りを不用意に聴き逃すと”魅惑の松島day”に帰結してしまう。私見では本山の中で五指に入る出来栄えだ(あとの四本は伏せておく)。また、硬軟と緩急の覇者でならす菅原も、専ら熱さの側に身を寄せっ放なしだったのではないか。そして仕切りの大役を果たした斎藤は、集中と燃焼によって全身に湯煙が立ち込めていた。筆者の中では、彼女への淡い注目が手応えのある納得に切り替わったようだ。演奏曲は「Remember Rockefeller At Africa」、「My One &Only Love」、「Ease It」、「Ceora」、「I Got Rhythm」、「It Could Happen To You」ほか、名曲メイカーのH・シルバ、B・ストレイホン、B・ゴルソンの曲が並んだ。後日、眠りのうとうとの中に「2管’S Dream」が割り込んできた。真偽半々のハーフ・ドリカムってヤツだな。
 標題はたまたま思い出した江戸期の学者「頼山陽」にこじつけた。 
(M.Flanagan)