『Jazz At Massey Hall』

名盤・迷盤・想い出盤 
 本盤は、C・パーカー、D・ガレスピー、B・パウエル、C・ミンガスそしてM・ローチという歴史に名を刻んだ演奏家による夢のような編成である。このライブ盤には殊更メンバーの体調不良が強調されるという夢のない逸話が付きまとっている。調べると1953年の録音ということだから、この時代に体調万全のミュージシャンなど一体どれ程いたことかと思うと、いささか裏話が表に出すぎなのではないかと考えてしまう。コンディション不良にも関わらず、こんな名演奏が奇跡的に記録されたとういレコード会社が後で仕組んだ販売戦略によるものではないかと勘ぐりたくなる。こういう話には深入りしないほうが良い。予備情報が嵩むにつれそれが頭から離れなくなる症状は、耳をおおいに邪魔してくれる。たまたま筆者私が手に入れたのは輸入盤だったので、誤読に終わるに違いないライナー・ノーツに振り回されなかったのは幸いなことだった。
 さて、レコードを買う動機には、噂になっている、このメンバーだから、この曲が入りだからなど色々あると思われるが、筆者の場合はどれも当て嵌まっていたと思う。個人的にお好みの曲が入っているレコードを集めていた時期がある。それは密かな楽しみでもあった。ただその曲ばかり続けて聴くというシングル盤的なことはやらない。飽くまでもアルバムの中の一曲として聴いている。そうは言っても、レコードの場合はAB両面あるので、往々にして片面偏重聴きになりやすいが、これはその傾向を寄せ付けない。本盤は「All The Things You Are」や「A Night In Tunisia」を初めよく知られた曲が収められていることもその一因だろう。好物を後に取っておく人にも先に箸をつける人にも迷いを生じさせのは、ターンテーブルの上には全てご馳走が並べられているからだ。これを聴いていると2管3リズムというクインテット編成はJAZZの醍醐味を凝縮していると感ずる。以後においてもこの編成が数多く採用されていることからも、それを実証しているだろう。勿論これは、他の編成・楽器に異を唱えているのではない。一つこれだけは付け加えて置きたい。このレコードにはガレスピーに合わせて想わず声を出してしまう大変ユニークな曲が収録されている。これに反応しなかったらヤバイよ。自身のジャズ度を測定するためにも本盤をお薦めしたい。
この名盤・・・コーナーが設置されてから、スイング時代まで溯って聴き直し始めるという大変な事態に陥ってしまった。今”I’m Old Fashioned”な者は新たな喜びと悲痛の混乱期に突入している。
(JAZZ放談員)
master’s comment notice
この手の企画は客寄せパンダと揶揄されることもあるが改めてメンバーを眺めてみるとこのうち誰が欠けてもジャズの進歩速度が変わっていたと思わざるをえない。

『Return To Forever』

名盤・迷盤・想い出盤 

 丁度50年前に聴いたのがこのレコードだ。たまたま同級生から「これ評判になってるらしいから貸すわ」と言われたのが出会いである。それまでロック系しか聴いていなかったので、JAZZというジャンルのレコード盤を聴いたのはこれが初めてのことだった。当時のロック脳にとってこれはピンと来ない代物に思えたのが正直なところだ。その数年後、1970年代の中期ごろから、機会あってJAZZを聴くようになっていった。この頃はフュージョンが勃興し、時代の潮流を形成した時期である。だが筆者はこれに馴染むことができず、ロリンズやコルトレーン、バド・パウエルなどを聴いていた。そうこうしているうちに、学生時代を過ごした街にチックのグループがツアーでやって来ることになったのだ。その時点では既に不朽の名作『Now He Sings Now He Sobs』を聴いていたこともあって、期待してコンサートに行ったのだった。それはストリングスを入れた10数名の編成で、チックはアコースティックとエレピとシンセを向きを変え変え演奏していた。バイオリンの女性のノリが良く記憶に残っているが、豪華な陣容の割りにいま一つという印象だった。1978年のことだ。なぜ覚えているかと言えば、彼女になるかならないか微妙な女性と二人で行ったからだ(失敗)。
 さて、話はここからだ。チックについてはモヤモヤ感を払拭出来ないままに数年が過ぎていったが、前掲の『Now He Sings~』の感動は易々と払拭できるものではない。これも
何かの縁である。彼のCircle時代やソロなどを中心に結構集め、知り得ていない空白を少しずつ塗りつぶしていったのである。この時期の最後の最後に手にしたのが所持していなかったJAZZとの出会いを象徴する通称”カモメ”の『Return To Forever』である。名盤・迷盤・想い出盤の第1回を何にするか。躊躇することなく数ある名盤を押しのけて本作を選ばせて頂いたのは上記の経過による。
 エレクトリック・サウンドと言っても、Rockを叩きのめす勢いでRock的エッセンスを内在化させたマイルスと異なり、楽園志向と言われようが何と言われようが、疑いなくチックは彼の音楽的意図を新たな地平に乗せたのだと思う。一時代を席巻する音楽の趣向もそれがムーブメントである限りは必ず退潮期が訪れる。但し多くはなくてもそこを逃れて長く生き続けるものがあるのも事実だ。いま『Return To Forever』を聴き直してその思いを強くしている。個人的には後年のチックに印象付けられる成果を見つけられないが、それを差し引いても、本作との出会いという偶然が無ければ人生の色合いが今とは別のものになっていたかも知れない。その意味で『Return To Forever』は撤去されざる私のJAZZ 50年記念塔なのである。
(JAZZ放談員)
master’s comment notice
このアルバムが出た時jazz喫茶ではリクエストが絶えなくリクエスト制限がされていたことが有る。それほど流行っていた。ジヤケットはカモメが飛んでいるものが使われており愛好家の間では「カモメのアルバム」と呼ばれていた。ところがあるミュージシャンが自分の持っているアルバムは「ペリカン」だと言い張った。バッタもののアルバムではあるのかもしれないが本人の勘違いかもしれない。珍しいので見せて欲しいとお願いしたが未だに実現していない。そのミュージシャンの所へ来る宅配便は「カモメ便」なのかもしれない。