不正経理

今東芝が巨額損金をどう穴埋めするか問題になっているが、発端は国策に踊らされた原発部門の巨額赤字をどう隠すかだった。赤字が続けば銀行が資金を引き揚げる。死に体になっているのに元気溌剌な振りをするのに似ている。誤魔化している間に状況が好転するのを待つ。なぜそのようなことをするのか。勿論つぶれたら自分の生活が困るという事がある。自分のボスの指示には逆らえない。そしてそういう状態が恒常化していき罪悪感が無くなっていく。株式会社であれば原理的には株主のために働いているという事になるのであるがそういう感覚には程遠い。国体を護持するために負け戦と分かっていても戦い続ける帝国陸軍の感覚に近い。司馬遼太郎が言った「鬼胎」という造語の方がより近いかもしれない。シガニー・ウィーバーに宿ったエイリアンのようなの分からないものが心に宿る。東芝の内部事情は知らないが不正経理の感覚はそういったものに近い。同僚をだまし、監査法人をだまし、銀行だまし。本社をだます。そういう経理のプロをだまし続けられることが能力のある経理マンであると錯覚してしまう。僕が20年務めた会社はいつしかそういう風に変質していった。そこそこの規模の会社は年間単位の予算があり、それが月、週、一日まで分けられている。その予算のプレッシャーは営業部門にかけられる。メンツがあるので予算がいかないときは色々な方法があるが架空売り上げを計上してしまう。経理の仕事はそういうことを正す月光仮面の様な部署だとぺいぺいの頃は思っていた。ある営業課の不正売り上げを見つけ上司に報告した。その時の答えが意外だった。「いいんだ、させておけ、あそこは予算がいっていないからな、あそこがいかないと店の予算が達成されない。店長に恥をかかす」
少しだけ組織の力学が分かってきた。
営業がもう鼻血も出ないようになった時が本当の経理の出番になる。黄金のペンを右手に持ち悪魔のように細心に数字を加工していく。出来上がった損益計算書と貸借対照表はプロが見抜けないほどの贋作に仕上がっている。そういうことを続けていても必ず綻びが出る。資金が不足するからだ。銀行への返済と本社への支払いは滞らせるわけにはいかない。不正がばれてしまうからだ。どうするか。弱小の仕入れ先の支払いを遅らすことから始まる。「システムの不具合で‥‥」と何度言い訳をしたか。小さな会社はうちの支払いが遅れると死活問題だ。担当の営業課から連絡が来る「あそこ本当に困っているから払ってくれない」と。「それでは、私のところに直接来させてください。その代りいい仕入れ条件引き出してください」みたいな話になる。そのうち弾薬も尽きてくる。上からは後1000万何とかしてくれとくる。まさか偽札をするわけにもいかないし、でも方法はあるもので困ると浮かんでくるものだ。ここからは有料サイトになるが、まだ公表できない。
僕の勤めていた会社は負債1兆2000億あり会社更生法の適用を受けた。その記者会見は7時のNHKのニュースでも流れた。僕はその年本社の経理財務本部に転勤を命じられた。銀行に少しでも借金の額を減額してもらう事、そのためにこれからのリストラ案を作成する事が主な業務の部署である。財務に詳しい人員が不足していた。一人亡くなり二人入院中だという事だ。勿論過労が原因だ。僕は経理畑の人間ではあるが財務のスペシャリストではない。「あいつは、器用だからなんとかするだろう」というのが上司の考えであった。僕はジャイアント・ステップを弾かされた時のトミー・フラナガンのように拙い仕事ぶりであった。そんな大変な時期にも元上司は「本社どこまで気が付いている」と毎日探りを入れてくる。本社の上司も「君はもう札幌の人間ではないのだから、ぜんぶしゃべりなさい」とくる。ゾルゲの様な二重スパイの生活だ。
もはやこれまでと思い辞表を出した。最初の不正を見逃してから15年たっている。