Jack Dejhonette『Special Edition』

名盤・迷盤・想い出盤 
前回の投稿「Tales Of Another」に対するMaster’s Comment Noticeに、偶然かつ幸運なことにジャック・ディジョネットの ピアノ演奏を目の当たりにすることができたという話があった。今回はその美話にCallされたつもりでResponseしたい。ディジョネットには「Piano Album」というキーボードに専念した立派なアルバム(b:E・ゴメス、ds:F・ウェイツ)があるほどの腕の持ち主であるが、それはややレア感があるので、ここではこれまでに受けたインパクトを優先し『Special Edition』を選択することにした。この10年ぐらいの間だろう、わが国では野放図に「異次元」という言葉が飛び交っている。そこにには一方的に期待感が押し込められているようである。しかし「異次元」とは、低次元を含む概念な筈である。少し理屈っぽいことを言ってしまったが、これは今回紹介する『Special Edition』が間違いなく「高次元」のアルバムだと確信していることへの弾み付けとして言っておきたかったのだ。この録音は1979年となっている。ディジョネットは’60年代に頭角をを現したドラマーであるが、筆者がこの人のリーダー・アルバムを手にしたのはこの作品が初めてであった。この頃の時代はオーソドックスなものから、オール電化もの、フリー系その他が等しく混在し、JAZZのストライク・ゾーンがかなり広くなっていたように思う。一面では多様なものが活性化していたのであり、他面では方向性がよく見えない様相を呈していたと言えるのかも知れない。この認識に大きな誤りが無いとすれば、今回選択した作品は当時の彷徨えるジャズ・シーンのど真ん中に投げこまれた、正に『Special Edition』だったと思う。この時の鮮烈な印象は月並みだが新たな”JAZZ来るべきもの”だったように思う。アルバムの中を簡単にうろついてみよう。E・ドルフィーに捧げた「One For Eric」から始まる。アップ・ダウンの構成が見事に決まっている。2曲目は「Zoot Suite」(ズート組曲)という曲だ。筆者の浅い知識では、ズート・シムズとの関係を連想するしかなかったが、何か釈然としないものが払拭されずにいた。そこで不勉強な態度を改め、辞書を引いてみた。すると「Zoot Suit」というのがあったではないか。その辞書によれば、1940~1950年代に流行したダブダブのスーツと解説されていた。ファッション通ではない筆者は呟いた。「おぅ、スーツ(Suit)と組曲(Suite)を絡めているではないか」。長らく立ち込めていた不可解な雲を突き破って突然晴れ間が差してきた瞬間だった。曲想はダブダブをイメージさせながらも演奏は全くダブダブになっていない。ここでの構成も文句なしに見事だ。このB面には「Central Park West」、「India」が採り上げられており、コルトレーンへの敬意が込められている。これはZootと違って想像するに容易だ。端的に言って、このアルバムにはJAZZ演奏の「動と静」がギッシリ詰まっている。未だ聴いていない人は我が耳で確認してみて頂きたい。筆者はこのアルバム以降、ディジョネットの新譜は欠かさず揃えることにした。どれも聴き応えのあるものばかりだ。1980年代の出会い頭にぶつかった相手が『Special Edition』だったのは実に貴重なことだったのであり、今日の耳に繋がっている。
余談になるが、まだ東京で活動されていた小山彰太さんが札幌に客演した随分前のことだ。ディジョネットについて訊いてみたことがある。彰太さんは確かこう言った。「あの人はルーズなプレイもゴキゲンだし、何よりここぞという時は1発で仕止めるんだよナ」。数年前にUターンされてからの翔太さんにその時の話をしてみたところ、そんな昔のこと覚えていなかった。彰太さんがカサブランカのハンフリー・ボガートになった瞬間だった。今一度、幹線道路に戻ろう。J・ディジョネットはこのアルバムでチョコッと例のキーボードを演奏している。この『Special Edition』を聴いているとディジョネットはプレイヤーとしてのみならず、音楽クリエイターとしての「異次元」の域にあると印象づけられる。勿論、百パー肯定的な意味合いにおいてである。これは歴史的なアルバムとして位置づけられるべき1枚である。
(JAZZ放談員)

maser’s comment notice
何か牛さんと交換日記をしているようで楽しい。このアルバムに参加している二人のサックスプレイャーについて触れておかなければならない。tsデビット・マレイ,asアサー・プライス。この時代次世代を担うプレィヤーとして嘱望されていた。二人とも伝統に根ざしつつフリーまで駆け抜けたプレイャーで有った。デジョネットの目の付け所が素晴らしい。
私事だがこのアルバムも見当たらない。2枚続けてである。有る疑惑が湧く。珠也が来るとレコード棚を物色する。珍しいアルバムが有ると「くれ」という。こちらも最早物欲はない。愛聴盤以外は進呈している。だがこのアルバムは進呈した記憶はない。これを読んでいたら返してほしい。濡れ衣だったら謝るが・・・(笑)