作家森村誠一が亡くなった。僕は熱心な読者では無かったが出版業界の矜持に関する事件が有ったので「悪魔の飽食」について述べておきたい。そしてもっと大きな負の連鎖についても・・・・この作品は第2次世界大戦中の関東軍731部隊の人体実験を告発する作品である。ここで使用された写真の一部が誤用であったことから事実を隠蔽したい右翼勢力がそれを逆手に取り「本全体が捏造だ」と騒ぎ出した。当初この本は光文社から出版されていたが嫌がらせに屈服し絶版にしてしまった。森村は絶縁を宣言し他の出版社をあたったがどの出版社も二の足を踏んでいた。だが角川春樹が「政治的に本が葬られるのを見過ごしては出版人としての矜持にかかわる」として角川書店が引き受けた。そしてこの本は大ベストセラーとなり角川書店の隆盛を象徴するモニュメントとなった。だが美談はここまでである。
奢れるものも久しからず。盛者必衰のことわりをあらわす。・・・教科書部門も運営していた角川がある団体からの圧力に屈し筒井康隆のある文を削除し筒井康隆は抗議の絶筆宣言をするのである。その後、角川ではいくつかのスキャンダルが発生し東京オリンピックでは贈収賄疑獄の一翼を担ってしまう事となった。
一方ここで描かれている731部隊に所属していた人間は戦後どうなったかと言う事である。幹部の軍医は全ての実験資料をGHQに渡した。GHQは貴重なデータであると判断し関係者の戦争責任を追及すべきではないとし関係者は戦後も生き延びた。あるものは厚生省の技官となり、あるものは大学の教授となり、あるものは研究センターに入り、あるものは医薬品会社を設立した。この見逃した事実が国民にまた災難を振りかけることとなるのである。ミドリ十字という会社を覚えているだろうか。血液製剤を製造し薬害エイズ事件を引き起こした会社である。この会社の専務取締役に内藤良一という人間が居る。731部隊の責任者石井四郎中将の片腕にあたる人間である。監督官庁の厚生省にも731部隊の生き残りが在籍し利益誘導をした事実はあまり知られていない。
マルクスのブリュメール18日は次の有名な言葉で始まる。「偉大な世界史的事実と世界史的人物は二度現れる。一度目は偉大な悲劇として二度目はみじめな笑劇として・・・・」ヘーゲルがルイ・ボナパルトを評して言った言葉であるが日本の場合当てはまらない。
二度とも悲劇である。