2023 Lazybird ウォッチング

 
1年を振り返る時期になった。困ったことに、LIVEを基礎づけるその場の音とその場の光景が月日の経過でバラけてしまった。こういう時は、後退途上国の流行語を手懸かりに1年間を『しっかり精査し、適切に対応する』ことが宜しそうだ。ついてはこの路線で逃げ切りを図りたい。今年の突破じめはKANI-BANDだった。必ずしも聴く機会が多いとは言えないフルート(小島さん)が入ると、サウンドの暴れ度が変わることが分かり楽しませてもらった。曖昧な記憶をカットして勢い2月。渡辺翔太トリオ(b俊也、ds一哲)あたりからリスナー軌道に乗ってきたと思う。このピアニストへの注目度は高い。自分のものにしている閃きがある。中でも喜劇王の「Smile」にはこっちもニコッとさせられた。まだ年の序盤で戦局が定まらない中、早くも大手がかかった。翌日から脳の半分以上が音符で占めていると言われる鈴木央紹が参加し、名曲と名演の大つばぜり合いが展開された。またまた振るえが来てしまう(俗称フルエル・マータ症候群)のであった。3月もフロム東京組の豪華合わせ技で、田中菜緒子トリオ(b俊也、ds柳沼)に始まり、一夜を越すと松島啓之と池田篤が加わる展開だ。トリオの方は田中の個性的なオリジナル曲が中心、知らない曲もベースとドラムスのタイトなサポートによってピアノが小気味よくスイングする。菜緒子も固定席ゲットに意欲を見せているようだ。そして黄金のツー・トップ、夫々のソロをぐるりして解決へ向かう2管のアンサンブルはスリリル満点、何と気持ちの良いことか。4月に入ると敏腕プロモーターの底力の見せどころ、19周年企画だ。ハクエイ・キム、米木康志、本田珠也のトリオを皮切りに翌日から峰さんが参加してくる。久し振りにハクエイを聴きたいと思っていたので、余りにタイミングがよろしい。曲も演奏もオリジナリティーに富むのを再確認した。余談になるが、父親がハクエイの知り合いという道内在住の娘さんが聴きに来ていて、会話を弾まさせていたのは喜ばしいひと時だった。さて、詳細は省くがレジェンド峰さんの並外れたエナジーはMr.Monsterそのものだ。極め付けはジョン・ルイスの「ジャンゴ」だ。峰さんが幾重にも刻み続けてきた音の年輪に挟みつけられるようで、身動きを完全に封じられた。なお、これは珠也の選曲だったらしく、会心の一撃はプレイその他にとどまらない。時がどんどん刻まれ5月になる。この月はゴールデン・ウエークが絡むので、従来はひと山作られてきたが、コロナの制約フェーズ切り替えとなったためか、数年来にわたり全国的に中止・延期を余儀なくされていたLIVEが本格的に後追い調整され始めて来たのだと思われ、ブッキングに苦慮している様子が窺える。そうして半年を経過しようとする6月。この月の恒例となっているミュージシャンが登場してくる。まずは松原依里(Vo)を聴くことができた。最近はヴォーカルを聴き損ねていたので、この実力派の歌に触れHotさせられた。月の締めくくりは何と言っても大石・米木だ。ここんところ、このDUOでは米木がエレベに持ち替えている。個人的には、グルーブの異質性から、エレベとウッドは別楽器に思えていた。そしてこの日もそういう聴き方をしていた筈である。ところが、エンドを飾った大石の「ピース」を聴いていて、楽器がどうのこうのという思いは消えて飛んだ。説得力のある演奏ってこういうことなんだな。7月は「内地」からの攻め込みがなく、本山・Nate、昼下がりのクラシックなどを聴いた。8月は早々に竹村一哲バンド(g井上銘、p魚返、b三嶋)だ。道東を起点に幾つかの会場を回り、ツアー締めくくりのLIVEがここに実現した。各地で盛況を博したと聞く。彼らのサウンドは、ぶ厚さの中に華麗さが織混ぜられており、さすがの猛暑も逃げ場を失ったのではないか。とかく井上銘に脚光が浴びがちではあるが冷静になろう。彼以外は割と頻繁に聴ける機会がある。いま聴いておくおくべきだ。ここでちょっとブレイクさせて頂く。LBと縁の深い臼庭潤が他界してから19日で13年も経ってしまった。だが彼の演奏はいつも昨日のことだ。この日は彼が追及したJAZZ-ROOTSを偲ぶことにしている。まあ臼庭は湿っぽいのを嫌うから、長居せずに9月に行こう。鈴木央紹の”Stars”リリース記念LIVE(g荻原亮、b若井俊也)がやって来た。セールスに影響するので、余計なことは言わないことにする。このライブの完成度は本年屈指。購入して出来ればそれなりの音量で聴くことをお勧めする。月の半ばにはLUNAの「ジャズ」ライブ(gネイト、b柳)、「ペシャワール」などのオリジナルのほか「竹田の子守唄」など、歌いきっているのが記憶に残る。10月にはドット・プッシュのトリオ版(p魚返、b富樫、ds西村)と池田篤が加わるカルテット版。還暦に至るも意欲に衰えを見せない池田と若手・中堅の一歩も引かないせめぎ合いだ。オリジナルを基調とするプッシュの曲に堂々乗り込んでいく池田は実にカッコいい。月末に急遽決定したKurage-Mini-Band、頗るユニークな演奏で中島さち子にメンバー分を含め座布団3枚。いよいよ11月に突入。低空飛行を伴わないフライトはない筈なのだが、今のところlazybirdは上空高いところばかり翔んでいる。そして更に高度を上げようというのだ。世にいう令和の”大催し”だ。先陣を切ったのは松島のカルテット(p本山、b三嶋、ds一哲)だ。いつも松島のプレイにはワクワクさせてもらっている。周囲の人々も同じに違いない。聴いていると何だか自分にも運が回って来そうな気になる。改めて素晴らしいトランペッターに感服。そしていよいよ鈴木央紹参上。前記(9月)の”Stars”とのセット・アルバム”Songs”のリリースに歩調が合っている。彼については何度もレポートしているので、借りネタだけを垂れ流すつまらないジャズのような書きぶりになりはしないかと萎縮気味になる。そこで理屈っぽいことを排除することにした。筆者は鈴木をゲッツと同じレベルで聴いているのだ。この実感をもってまとめとする。そろそろ息が切れてきた。LIVEは宝クジではないから引けば当たる確率が高い。来年もこういう安心できる博打に賭けたいものだ。その意欲を途切らせないためにも、怠惰>成実の人生観に磨きを掛けて行くとしようか。今年の駄文をチラ読みされた各位にお礼を申し上げておきたい。最後に生演奏をレポートすることについて、右手を胸に充てて言い訳する。生聴記よ永遠なれ(笑sometimes泣)。
(M.Flanagan)