blue in green 1

小池百合子の都民ファーストが大勝し、池田聡太は破れ連勝記録は途絶えた。今日の朝刊は話題に事欠かない。煮だしたようなコンビニのコーヒーを飲みながら新聞を読み終えたときその女は入ってきた。勧めもしないのに俺の向いの椅子に座ると高々と足を組み事務所を一通り眺めると煙草をバックから取り出した。今月の俺の収入では買えそうもないブランドものだった。
「殺風景な事務所ね」
「形成外科の受付じゃないからな」
「雑な口のきき方ね。探偵さんはサービス業ではないのかしら」
「汝、何者か、を語れ。私はなにものでもなろう」
「ちょっと、違うけど・・・・・探偵さんは同志社大の神学科卒業なのかしら」
女は右手に挟んだ煙草を小刻みに揺らした。
「火、貸して」
「俺は禁煙中だ」
「あ、そう」と言って高級バックから金張りのライターを取り出しこちらにほうり投げた。
「点けて・・・・禁煙辞めたら付け方忘れないように・・・」
苦笑いしながら差し出した俺の左手にそっと自分の手を添えて火をつけた。
女は左足を上に組みなおした。悪くない眺めだ。どちらも熟練したスイッチヒッターの様なスムーズな流れだった
「男を探してほしいの」女は用件を切り出した
「浮気調査はやらない。犯罪にかかわる調査もやらない。迷い猫も探さないし文部省への口利きもしない」
「私が幼稚園の経営者に見えるかしら」と言って細いメンソール系の煙を俺に吹きかけるように吐き出した。
「話を聞こう」
「緑川亮、38歳三日前から顔出さないの」と言って写真をテーブルの上に滑らした。細面のいい男であった。前髪にはパラパラ白いものが混じり金融系の会社であれば素敵な上司ベスト3には入る印象であった
「なぜ、警察に届けない」
「野暮な探偵さんね。訳アリなの」
続く