2019年 レイジー・バード・ウォッチング

 LBライブとその周辺の記憶を客席から振り返ることにしよう。今年は冬期間に対するリスク・マネジメントが奏功し、スケジュールの混乱は回避できたように見受けられる。この寒い時期にfood-fighter碓井佑治が東京行きを決断したことは、スポーツ新聞の風俗欄よりは値打ちのあるローカル・ニュースだ。その碓井は3月に14周年ライブにおいて、大山淳をDsに配したAnother-Loud3でRock-LUNAとの共演を後に取敢えず旅立ったのだった。それから程なく、本州では“桜”のころに周年記念ライブの第2幕となって行くのだが、地元連を交えつつ米木、池田、荒武といった店主招待枠のミュージシャンが、きっちり演奏責任を果たして行った。初夏を告げるころには大石がやってくる。今年は米木週間の最終盤に組み込まれる形で、松原衣里(vo)との初共演を含め大石美学を余すことなく伝えていった。なお、大石はLB特選名酒“いも美”を素材に曲を作ると言明。それは後日、“E・More・Me”と題され、約束は成就されたのだった。来年はきっとそのお披露目があることだろう。7月になると鈴木央紹が登場。日々の編成替えを経て、新作“Favorits“のメンバーによるライブが挙行された。初登場のオルガン宮川純、鈴木、原大力のトリオである。若き宮川のグルーブには油断できない。今回、原は断続的に登場したのであるが、原および共演者の一部始終は書かれざる“原達日記”と言われているらしい。盛夏の候、8月に初めて壷坂健登を聴いた。原石が光を放ち始める場に立ち会ったような気になった。アイラーの「ゴースト」にはちょっとビックリした。9月には恒例となっているLUNAの本業ライブがあり、新しいものを出しつつ決めの定番が「諸行無常」というパラドキシカルな着地で芸術点を稼ぐ。わが国では100年に一度のという語り口が頻発し、もはや自然界の歯車が完全に狂い始めている。交通機関がマヒする中、LUNAはやっと乗った飛行機を降りてから数十キロを徒歩移動したと後に聞いた。この月には大野えりが来た。文句なしに今年のベスト・ライブに属すると確信する。特に、A・リンカーン作の「throw it away」には胸が締め付けられた。10月に入ると池田篤半年ぶりに再登場。乱気流で飛行機が相当スイングしたらしい。だが到着時の疲労モードから「Impressions」で快心のモード演奏に突入したのだった。それから10日後には、池田とともに辛島さんのバンドにいた小松伸之(ds)と楠井、ここに快進撃を続ける本山のTrio2Days、三日目はハヤテのように現れた鈴木央紹が入りトドメを刺した。そして寒さ対策の11月を迎えた。そんな初冬に‘70年代以降をけん引してきた峰さんが来られた。我が国JAZZの様々な効能が全身を包んでくれる峰の湯は流石の名湯だ。続いて実力と人柄で高位置をキープする松島が引き締まった演奏を披露して行ったと思ったら、次は梅津さんだ。世界中の音楽を2日間に凝縮して行ったのである。感性が限りなくアバンギャルドな人だ。それから1月と7月の2度来ていったマキシム・コンバリュー(p)も今年に花を添えた1人である。同じ欧州人のJ・キューンのような硬派ではないが、そのことが逆にヨーロッパの音楽風土の多様性を感じさせてくれた。いよいよ2019年も大詰めとなった師走、22日は荒武裕一朗、米木康志、竹村一哲のトリオ、翌23日は山田丈造が加わるカルテットが有終の美を飾った。マイルスはハンコックに「何を“弾けば”いいか聴こえてくるまで、耳を澄ませて何もするな」と言ったが、我らは“弾けば”を“聴けば”に置き換えて来年のライブを楽しみにしようではないか。ここらで2019のLB-Watchingを終えたい。では、不特定少数の皆さんよいお年を。
(M・Flanagan)