2020.2.28 ザ・グレーテスト・コードレス・トリオ

池田篤(as)米木康志(b)原大力(ds)
 待ちに待ったと言うべきである。事前の触れ込みどおり我が国コードレス・トリオの最高峰が登場するのだ。このメンバーは10年余り前に原大力名義の“You’ve Changed”(貴方は変わったのね)をリリースしており、そこからの曲を中心にこのライブは進行して行った。
1曲目は「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」、恐るべき穏やかさである。処どころP・デスモンドのような音色が覗いていた。パーカーのCHARLIEを逆さ読み風にしたと言われている「Ah-Leu-Cha」、アップテンポの曲を湧き出すままに池田は仕上げてみせた。3曲目のJ・ロウルズ作「ザ・ピーコックス」は暗がりに誘い込むような曲想で孔雀を彩る華やかさはないが、こうした渋い演奏から三者のバラード達人ぶりが伝わって来る。1st.を締めたのは「フォア・イン・ワン」。T・モンク特有の突起物に躓きそうな曲を平然と捌いていたのは流石。2nd.は「ジャスト・イン・タイム」、軽妙な仕上がりが嬉しい。演奏時間が実時間より短く感じる。2曲目は、樽に寝かせてウン十年の「イッツ・イージー・トゥ・リメンバー」、このコクだ。当夜のハイライトを成したのは「チェイシン・ザ・トレーン」、池田の長めな独奏から一気にインタープレイに突入して行く瞬間はスリル満点。この曲名はV・バンガードでのライブ録音でコルトレーンが動き回りながら演奏するため、録音技師のR・V・ゲルダーが収音マイクを持ってTraneをChaseしたことに由来している。池田は動き回らないが、引き出しの奥にまだ引き出しがあるその音をChaseするのは快感至極。最後は「タイム・アフター・タイム」、これぞ大人の風格というべきやや抜いた感じの演奏に心がなごむ。アンコールはミデイアム・テンポの「コンファメーション」。池田のウラ攻めが何とも心地いい。因みに日本国の宣伝文句は「オモテ無し」。
冒頭で“You’ve Changed”(貴方は変わったのね)について触れた。聴き終えてこのトリオには過去に甘んずる姿勢が微塵もないことが見て取れる。「同じことやってたら進歩ないからさぁ~」と呟いていたのは何時ぞやの米木さんだ。そういうことなのだ。ここで原を語るために少し振りかぶった物言いをする。音楽家であるかどうかに関わらず、人には基礎的ビートが備わっており、誰もがその一本道でつながるからこそ音楽は広く受け入れられることになっている。バンマス原のメリハリに浸っていると、我々の少々バラバラな基礎的ビートは歓喜に包まれ総取りされてしまう。そして取られた方の気分を益々上々にしてしまう。原とはそういうドラマーである。
ところで、今回と同じ編成でL・コニッツに“モーション”という傑作がある。これとの比較級は置いといて、このトリオは熱が加わった“エモーション”としておこう。そこで行き着いた先が最上級の『ザ・グレーテスト・コードレス・トリオ』ということになる。
<追伸>翌29日は原大力+1のLIVE。“+1”扱いされたのはピアノの本山禎朗だ。本山は端正かつ力強い堂々たる演奏を貫き、彼が単発で喝采を浴びる段階を優に超えていることを窺わせていた。演奏曲を紹介しておこう。「イン・ラヴ・イン・ベイン」、「バウンシング・ウィズ・バド」、「サム・アザー・タイム」、「ホエン・ウイル・ザ・ブルース・リーヴ」、「バプリシティー」、「You’ve Changed」!!!、「クレイジーオロジー」、This is the beginning of a「ビューティフル・フレンドシップ」、「ホエン・サニー・ゲッツ・ブルー」。
(M・Flanagan)