2020夏 LUNAの飛び石ライブ

2020.8.28 るなんぴる2020
LUNA(Vo)南山雅樹(P)菅原昇二(Tb)
 ライブを強行すべきかどうか随分思い悩んだ末の決断だったそうである。LUNAは今年2度目となるが、いずれも感染棒グラフ山頂付近での来道である。LUNAは、歌うジューク・ボックスの異名を持つが、今回もボサノバ、スタンダード、ニュー・ミュージック、フォークなど多彩な曲が並べられていた。個性のある曲それぞれを滑らかにLUNA流の統一感にまとめ上げていくのが、ジャズ・シンガーとしての彼女のステージ・パフォーマンスなのである。そしてこの日は、幾つかの曲において特別な思いが込められていたように思う。あからさまな批判が封じられている状況下で裏歌詞を以て風刺した「酔っ払いと綱渡り芸人」。‘60代の公民権運動の時代にP・シガーによって世に知れ渡ることになった「ウイ・シャル・オーバーカム」をイントロを入れずに歌い始めたのは、自己主張のようにも聞こえた。毎回聴く「諸行無常」では、いま蔓延している息苦しい諸行に対し無常を宣告するかのような熱唱となっていた。感動を突き抜けていくと、何故か切ない。
他の曲は、「サマー・タイム」、「オール・ザ・シングス・ユーアー」、「サニー・サイド・オブ・ライフ」、「ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング」、「ウイル・ビー・トゥギャザー・アゲイン」など。え~と、世間の標的にされているが、そもそも日没を境に全国津々浦々が“夜の街”だ。今日はノース・サイド物語の“夜の街”。バーンスタイン流に言うと、“何かが起こりそう(Something’s Coming)”ということになる。そしてその通りになった。Tonightは気分がいい。
2020.9.1 昭和歌謡 狙い撃ち
LUNA(Vo)、古舘賢治(G 、Vo)板橋夏美(Tb) 
JAZZのみの一本足打法では、時折、浮かせた方の足が退屈を訴えて来る。そんなときに転がり込んで来たのが昨年来の古舘&板橋の昭和歌謡であった。この路線は何度か予備走行を繰り返してきたが、いよいよ本格的にダイヤに組まれた格好だ。それに華を添えるようにこの日はあのLUNAをお迎えするという豪華版になったのである。この歌い手はJazzとRockを往来し、ついに歌謡界にウララ~ウララ~しながら狙いうちを仕掛けて来たというべきか。もともと“昭和歌謡”シーンで名をはせた人の中には、“JAZZ”歌いが結構いるので、この両者とって逢う時にはいつでも“他人の関係”ではない。昭和に生きた筆者は、今ここが地方の公民館であり、玉置ひろしの架空ナレーションも想定して臨んだ。一気に曲を紹介する。珠玉の古賀メロディー「影を慕いて」、細川たかし「北酒場」、ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」、昭和の作詞・作曲を代表する六八コンビの「黄昏のビギン」、石川さゆり「天城越え」、ディランⅡ「プカプカ」、松崎しげる「愛のメモリー」、北原ミレイ「石狩挽歌」、五木ひろし&木の実ナナ「居酒屋」、河島英五「酒と泪と男と女」、テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」、マッチ「ギンギラギンにさりげなく」、女王美空ひばり「愛燦燦」。昭和を万遍なく網羅した曲を配してきた。小粋な曲はチョチョイのチョイ、ド演歌でみせた衝撃の絶唱はモノホンを認めざるを得ない。これからLUNAはどうなってしまうのだろう。LB専門家会議でも意見が分かれている。
余談。LUNAの祖母が愛知で音楽教師をしていた時、年少の伊藤ユミ・エミを指導していたそうだ。それが後のザ・ピーナッツである。叩けばホコリが、持ち上げれば貴重な話が出て来るものだ。終演後、達成感とともにこぼれ出た。『RockはJazzの10倍疲れる、昭和歌謡はJazzの10倍緊張する』。果敢に挑戦して10倍にへこたれないのがLUNAの得難いところである。
(M.Flanagan)