「彼女は頭が悪いから」 姫野カオルコ著

20日までの休業期間に読もうと思ってごっそり買ってきた中の一冊である。この作家は初めて知った。誰か信頼できる人が勧めていたからだと思うのだがそれが誰かは忘れてしまった。音楽でも本でも信頼できる人がいれば素直にその人の進めてくれたものを聴いたり読んだりする。僕はそういう風にしている。当たりはずれはあるがそれは自分の能力が届かなかったからかもしれないと作者に当たらなくても済む。あくまで信頼できる人のお勧めの場合である。
この小説は500ページ以上あるのでつまらなかったら2日間無駄にすることになる。いや・・面白かった。だが読後嫌な感じが残る小説なのである。2016年東大生5人が女子大生に強制猥褻行為のかどで逮捕されると言う事件があった。その後のネット情報の反応を機に書かれた。だが事件のノベライズでもないしノンフィクションでもない。小説でしか表現できない領域でこの事件の核心を問題提起している。ここに過激な性的描写は出てこない。だから事件は無かったと言っても良い。東大生も悪ふざけの領域として無罪を主張する。その親たちも上流階級の人間である。その女子大生を東大生を狙う性悪女としかとらえていない。格差社会がはっきり見えてくる。ある飲み会に美咲は誘われる。少しの期間付き合った東大生「つばさ」も来るからだ。美咲はその日つばさに一言だけ伝えて別れようと思っていた。二次会で学生のマンションに行く。ネットには「酒飲んで男の家に行ったら了解したことでしよう」とのコメントが流れる。勘違い女として世間から誹謗中傷される。美咲は「ネタ枠」で呼ばれたのである。宴会を盛り上げる役目である。その用語が痛い。東大生の親たちは示談に持ち込もうとする。美咲の出した条件はただ一点だけである。それはここには書かない。
ある犯罪が起きる。真実を見出そうと報道あるいは裁判が起こされる。だがそこには不可解なもの、闇の部分が必ずある。小説にはそこに言及できる力がある。
篠田節子は次のように総括する
「性的興味の対象である女性に加えられた性暴力」ではなく「モノとみなされた下位の者の心身に対して振るわれた遊びとしての暴力」