太陽を盗んだ男

この映画を見た日チャーリ・ワッツが死んだ。そんなこと何が関係あるのだと思うかもしれない。僕の中では繋がっている。封切当時話題になっていたが見逃していた。長谷川和彦監督の作品で1979年の制作だ。何となくしらけてくる時代の空気感が横溢している。沢田研二が高校教師、菅原文太が刑事役。冒頭沢田研二は引率する研修旅行でバスジャック事件が起きる。
なんと皇居前である。捜査責任者が菅原文太で二人の協力で生徒たちは無事解放される。この出会いが伏線になっている。沢田研二は中学の理科の教師で学問的見地から生徒に原爆の作り方を教えている。実際沢田は原子力発電所に忍び込みプルトニウムを盗み出し自宅で小型の原爆を作り出す。それを武器の政府を脅すのであるが要求がはっきりしない。交渉窓口が菅原文太である。勿論犯人が沢田研二だとは知らない。最初の要求は今中継中の巨人戦のナイターを終了するまで放映することであった。学生運動が収束しつつあり何を目標に生きていけばいいのか分からない喪失感が出ている。沢田研二は学校以外での人間関係は一切捨象されている。沢田研二は池上季実子がディスクジョッキーを務めるラジオ番組のフアンでもあった。そのラジオフアンも巻きこみ二番目の要求がローリングストーンズの日本公演になった。僕は運命論者ではないが誰かが亡くなるとこういう経験がする。会場に犯人は必ず来ると踏んだ菅原文太は網を張る。沢田研二は辛くも逃げ延びる。そして最後となる要求が現金になった。原爆を作るにあたってサラ金から金を借りたのだ。・・・が本当に現金を欲しい感がしない。脳足りんなDJ役の池上季実子は聴取率を上げようと番組で逃亡の実況中継をする。池上は最終的に沢田研二の逃亡を助けるのであるがヘリコプターを飛ばすのは少し無理がある。池上演ずるDJは美人でセンスが良くて、けれど頭からっぽでジュリアナ東京のお立ち台で羽振って踊っているタイプである。けれどしらけている。生活は沢田研二と全く違うが同じ質の孤独感を抱えている。
菅原文太が刑事役で好演しているが撮影時いたるところにヤクザの癖が出てきてしまい若い監督に何度もNGを出され切れそうになったと聞いた。沢田研二も体当たりで演じているが長回しのカットで何十回ものNGをだしその度、消えていく制作費の事を考えプロデューサーは胃が痛くなった。
この映画が話題になったことの一つにロケを無許可でゲリラ的に撮影しているカットが多い事でもある。警察の手入れが入った時の為に助監督は始末書を胸にヤクザ映画で言うところの「鉄砲玉」の役を担わされてもいた。その中には相米信二もいた。そこがNG出せない緊迫感に満ちている。この映画の上映時マーティン・スコセッシ監督が来日しており日本映画を見て帰りたいと要望を出した。たしか映画の白井佳夫がこの映画を勧めスコセッシ監督も気に入ったと言う事だ。長谷川監督もスコセッシ監督のファンであり「タクシードライバー」のような映画を撮りたいと考えていた。そういえばR・デニーロと沢田研二の孤独感の在り方に共通したものを感ずる。
ラストシーン沢田研二は原爆を抱えて逃げるのであるが自分がもう被爆していることも知っている。今まで原爆に関する映画はすべて被爆者の立場から作られている。加害者の立場から作られた初めての映画でもあり被害者団体から相当のクレームが来たと聞いている。
最後に原爆はどうなったか・・・そんなことはどうでもいいと言わせる力作である。