2017.3.2 12周年キム・ハクエイ北海道トリオ

キム・ハクエイ(p)米木康志(b)竹村一哲(ds)
ここ10年ほどは、雑誌はもとよりCDも滅多に購入していない。例外的にライブだけは楽もうと言ったところなので、時折、ミュージシャンが行商的に持ち込んだCDを弾みで買うことがある程度だ。こうした事情もあってキム・ハクエイの音を初めて聴いたのは、筆者の情報源であるLBライブにおいてであり、昨年2月のことだった。その印象は“不思議な新鮮さ”だったのを思い出す。それは、これまで聴いたことのない音があったという意味合いである。これにくすぐられると再び聴いてみようかという気になってしまうのが善良なる悪い癖である。この日の演奏曲(*印はハクエイ作品)は、「ジョーンズ嬢に会ったかい」、「*コールド・エンジン」、「オールサ・ザ・シングス・ユー・アー」、「ブルー・イン・グリーン~ソーラー」、「*ニュー・タウン」、「*デレイド・ソリューション」、「*ホワイト・フォレスト」など。ハクエイのオリジナルに特徴的なのは独自のエキゾチズムが横溢していることだ。“不思議な新鮮さ”と先述したのはこのことを指している。不遇の鬼才レニー・トリスターノを思わせる地を這うような長いフレーズも神秘性を漂わす効果を高めている。かつて未知との遭遇という映画があったが、そのJAZZ版を欲している人には個性豊かなキム・ハクエイがお薦めだ。12周年の初日を終えて、彼のピアノをより多くの人に聴いて貰うためにも、この先もライブの機会があることを願う。因みに、北海道トリオとは三人とも北海道育ちという事実に基づいている。
2017.3.3 12周年鈴木央紹With北海道トリオ
鈴木央紹(ts)キム・ハクエイ(p)米木康志(b)竹村一哲(ds)
2日目は大物が一枚加わったカルテット編成。その鈴木は11周年にも客演しているほかLBでは(ということは我が国の音楽シーンでは)上席Musicianに君臨している。例によって鈴木は平然と演奏している。この光景に騙されないためには、目を閉じて聴く必要がある。すると素通りできない難所が連続していることが分かってくる。これが世にいう鈴木の高度進行というヤツだ。余談になるが、ピアノのハンク・ジョーンズが頭の中に譜面2千曲ぐらいが入っていると言っていたが、鈴木は歌謡曲を含めると1万曲くらいは知っているとあっさり風に豪語していた。真偽の程はともかく、殆ど耳がデータ・ベース化していて、本当かも知れないと思わせるところがこの人物の恐ろしいところだ。鈴木とハクエイは共演歴があるらしいので、互いの演奏の筋は読めていると思われるが、実際聴いてみると過去の延長というよりは現時点の真向う勝負となっており、ライブ=正に生きた音楽の醍醐味を感ずる。演奏曲は、前日演奏したハクエイのオリジナルから数曲ピック・アップ、唯一曲名が紹介された懐かしいC・ロイドの「フォレスト・フラワー」、イントロから長いアドリブが繰り広げられ最後にテーマが顔を覗かせる「アイ・ディドゥント・ノー・ホワット・タイム・イット・ワズ」、極上のバーラード「アイ・ソート・アバウト・ユー」、一番の聴きどころとなった鈴木の演奏力が全開する最終曲(曲名を思い出せない!)等々。そしてアンコールはLBで「いも美も心も」と翻訳されている名曲「Body&Soul」。
今年の記念ライブでLBは「12」を単位の基礎とする鉛筆のように一区切りをつけた。芯の先がますます尖鋭になっていくことを期待して止まない。
(M・Flanagan)