2017.5.12-13  JAZZ緩みなきもの

本田珠也(ds)守谷美由貴(as)須川崇志(b)石田衛(p)
本田珠也はわが国屈指の多忙なMusicianである。その彼はLBの年間計画に欠かせない演奏家として毎年ブッキングされており、それだけも讃辞に値すると思っている。例年は重鎮との共演を堪能させて貰っているが、今回は世代を下げた気鋭の布陣であることが興味をそそる。と、知った風なことを言ったものの、筆者はこのバンドについて詳しくない。ネットで予備情報を仕入れる手もあるが、即席の手掛かりは返って邪魔な縛りになるので、情報過疎の方がいいと決め込んでいる。そんな訳で、この度、守谷と須川を初めて聴く。それは、ちょっとした異変の始まりでもあった。守屋は華奢な(失礼)感じの外見とは裏腹に、数曲提供された自身の曲想は骨太である。演奏もそれに同調するかのように奔放で思い切りの良さがあり、バラードでの歌わせ方も自らのものだ。ここで筆者の予断でもある今どき流行りの女流サックスという思い込みは崩壊、気付くのが遅れれば人類の半分を敵に回すところであった。外見に限れば須川もやっと外泊許可を得た入院患者のような細身であるが、音の芯は屈することの無い硬質さがあり、又、技巧の超絶さも兼ね備えていて、ジャズ本流のみならず実験的音楽も消化済といった聴きどころ満載のベーシストだ。ピアノの石田は一度聴いて辣腕ぶりが耳に残っているが、今回も華麗に引き締まったソロに加え、スキのない絶妙のバッキンングは聴き逃すべからずであった。こうした個性の群れを率いているのが珠也である。群れと言っても、彼は野生の動物集団のリーダーと違って、強権的に仕切ることをしない。本田珠也の音楽は、約束事を最小限に留めながら、その場で最大限の音楽創りを決行するところに真髄がある。この音楽には、標準拍子であろうが変拍子であろうがあまり関係ない。父・竹廣氏が残したメッセージ、「地に響くように!」=DOWN・TO・EARTHがあるのみなのだ。今回、珠也のドラムソロから感じたことを付け加えたい。それは、音が音から脱出して生き物のように動いていた、ということである。
演奏曲は、「ハーベスト・ムーン*」、守屋のイニシャルと思われる「M’s ジレンマ*」、「リップリング」(竹廣氏)、「タック・ボックス*」、「クール・アイズ」(竹廣氏)、「ノー・モア・ブルース」(ACJ)、「ワンス・アッポンナ・タイム*」、「スフィンクス」(O・コールマン)、「ブルー・プラン」(峰さん)、「ラブ・アンド・マリッジ」(j・v・ヒューゼン)、「ディープ・リバー」(ゴスペル)、「レッド・カーペット」(A・ペッパー)、「ファースト・アウェイ*」、かつて臼庭と死ぬほど練習したという「ソング・オブ・ザ・ジェット」(ACJ)、珠也の祖父が作曲し、感動極まる演奏となった「宮古高校校歌」など。(*印は守屋のオリジナル)
5月ライブ・スケジュールに、『本田珠也の一番やりたいグループ、“一切の緩みなし”』とコメントが付されていたことと、2日とも演奏されたのはオーネット・コールマンの曲だったことを足して2で割った結果、標題を「JAZZ緩みなきもの」とさせて頂いた。
札幌で一番キレイな店(珠也の弁)で再び、DOWN・TO・EARTHを聴く日が楽しみだ。
(M・Flanagan)