2020.6.26-27 PB2DAYS

6.26 松原衣里(vo.)With大石学(p)・米木康志(b)
 PBとは、PLEY・BOYと言いたいところだが、シンプルにPIANOとBASSのことである。 
松原は4度目になるが、前回は我が国が誇るこのPBをバックに共演した。その時の松原の様子は、得難いものが一夜に舞い降りて来た時のような万感の思に溢れていた。松原は、所謂本格派とよばれる一群に属するシンガーである。声量に恵まれた資質はそのまま彼女の個性に繋がっていて、巧みに彼女のオーソドックスなジャズの世界を体現している。それは選曲からも窺われる。「オールド・デヴィル・ムーン」、「マイ・リトル・ボート」、「ピース」(H・シルバー)、「サムタイム・アイム・ハッピー」、「ヒアズ・トゥ・ライフ」、「ジス・キャント・ビー・ラブ」「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。自称神戸のでっかい姉さんの中央に陣取った歌いっぷりは、見ばえの重量感を伴って堂々たるものである。その後ろでは、時に指を躍らせ時に控えめの主張を組み入れていく。どれもこれもワクワクする贅たくなステージの一丁上り!となった。歌伴あっての歌ものとよく言われるが、このPBによるサポートぶりは、歌伴の極意が満載されて飽きる暇がない。流石。

6.27 大石・米木DUO
 両者は長年に亘って共演を重ねて来た。その積み重ねの中にはLBでのものも数多く含まれている。関係者以外でそれを熟知しているのは、LBとともに歩み続ける宮崎焼酎のスタンダード“いも美”である。ここから少々解説を入ることにする。昨年来演した時に、“いも美“の曲を提供すると大石は言明した。そして誕生したのが「E more me」である。これは単に銘柄をもじったパロディー・タイトルではない。「Eの音をもっと私に」という狙いが仕込まれており、”ミ“の音がふんだんに散りばめられているのだ。筆者のごときにとっての”いも美“は、酔っ払い衆が囲む酒盛りのイメージに過ぎない。ところが、大石はそれとは真逆の格調高い装いに仕立て上げており、彼ならではセンスが織りなす綾である。笑いが漏れるほど圧巻のリップ・サービスは、この演奏をボサノバの巨匠J・ジルベルトとLBマスターに捧ぐと、大石から落差十分な感動コメントがあったことだ。これが実録”いも美”をめぐる冒険のアウトラインである。今回のライブは“いも美”づくしではない。タイトル未定または不明のものが多かったが、それをものともしないDUOの緊張感漲る演奏が終始展開された。知っている曲では、切れ味抜群にスイングする「アイ・キャント・ギブ・ユー・エニシング・バット・ラブ」、大石の美意識が滲む「LONESOME」。ピアノソロでの「ひまわり」にはM・マストロヤンニがシベリアの極寒に身を預ける張りつめた映像を思い浮かべた。そして時は流れ、行き行きてアンコール。大石楽曲の最高峰をなす「ピース」。終ってから「いつ聴いてもジーンと来ますね」と米木さんに一言を向けてみた。「あの演奏には大石の“祈り”が入ってるんだよ」。ベーシストはそう受け止めていた。深く根の張ったベース音は、感受性つまり米木さんのサイレンスの部分から伝達されているのだと思った。
 ここで新着情報をお届けする。この9月に米木さんのリーダー・アルバムが吹き込まれる計画が進んでいるらしい。何でも米木選集によるによるトリオ作品(米木、大石、則武)のようである。タイトルは決定していて『夢色のノスタルジア』。名盤の匂いがする。
(M・Flanagan)