ミックスナッツ

柔和な顔の人がいるものだ。何となく幸を運んできてくれそうな・・・・。僕の身近には三人いた。店の近くのコンビニの店員さん、八百屋の元気のいいお姉さん、道新の集金のお母さん。原田知世でなくとも、薬師丸ひろ子でなくとも心を和ませてくれる人は身近にいるものだ。今回は道新の集金のお母さん。角川映画には出ていないがキャリア30年のベテランで先月引退した。少し腰は曲がっているが雨の日も雪の日も自転車で元気に集金に回っている。86歳になったと言う。昔は朝早くに来て何度もチャイムを鳴らされて、それで目が覚めてしまい苦情を言ったこともあった。今では僕の生活パターンに合わせた時間帯に来てくれる。それでも毎回遠慮がちに「起こさなかったかい」と聞いてくる。毎月少し立ち話をする。
住んでいるのは僕のご近所で一人暮らし。北海道中部地震の時も一人で乗り切った。近くに身内はいるかと聞いたことが有る。市内に姪娘さんがいるらしいが「迷惑はかけられない」と顔に屈託がない。僕は何かあったら来てねと言ってある。毎年期変わりに販促品なのであろう、ファイターズの選手名鑑と家計簿はいらないかと聞かれる。野球には全く興味はないし店の帳簿だって適当につけているなどと余計なことは言わず必要な人にあげてと言う事にしている。
最後の月自動引き落としの依頼書を持ってきた。僕は「お母さんが元気に集金に来るのを楽しみに新聞取っているのでやめようかなあと思っている」と言った。本心である。今の時代ネットでも読める。
「旦那さん、嬉しい事言ってくれるねぇ」と顔をほころばせた。
「30年間ご苦労さん」と言って緑茶のセットを渡した。お母さんはこんなことしないでと遠慮したが文字通りつまらないものである。受け取ってもらった。
月は変わって日曜日の昼下がり。チャイムが鳴った。電気もガスも払った。新聞の集金は終わった。国保の督促は日曜には来ない。怖いものはない。開けると道新のお母さんであった。
「昨日で全部の集金が終わったよ。長い間有難う」とわざわざ報告に来てくれた。
口に合うかどうかわからないけど・・・・と言ってミックスナッツ手渡された。
毎日少し齧ってお母さんの健康を願っている。