2019.10.4-5 池田篤 今日のインプレッション

池田篤(as)田中菜緒子Trio(田中(p)若井俊也(b)西村匠平(ds))
 4月の14周年に池田が荒武との共演を果し、「閉伊川」の感動的ソロは記憶に新しい。その池田をよもや年内に再び聴けるとは思っていなかった。今回は昨年の3月に13周年で初登場した田中菜緒子Trioとの合流Quartetという妙味も加わる。
ところで、私たちの演奏家に対する思いは、それまでに聴いてきた延長線上に位置させているのが普通である。人によっては、前期と後期のどちらの方がいいかというように、はっきり線引きして問いを立てることもある。それは一概には、否定できない面もある。しかし、演奏家の積み重ねの裏には体力的変化や私事などの連続性において、誰もがそうであるように人の属性が否応なく影響している。池田の凄まじい演奏力に釘付けにされた体験者は相当数いると思われるが、これまでにも触れて来たように、それが一聴変わっていないようでいて、今は8の力に10の思いを込める池田のように思えている。この熱く浸み込んでくる池田を聴き逃すことがあってはならない。それが池田に対する今日のインプレッションである。それを象徴する演奏が、もう聴く機会はないと思っていたあの曲、「Impressions」だ。こうなるとマナジリの緩みが容赦してくれなくて困る。言いたいことを言ってしまったので、その他の曲を紹介する。出だしはモブレーの「ジス・アイ・ディグ・オブ・ユー」、田中の「ルンバ(とメモされているが無題)」。池田は石垣から船で南下した琉球地方のある島を訪れるのを恒例としている。その地を素材とした「ウガン」。これは南国情緒を綴ったものではなく、その島の祭祀を行う“拝み山”を曲名にしたもので荘厳な佇まいの曲である。一月前に作った池田の未だタイトルのない曲も披露された。更には池田のラージに聞こえる「リトル・バーニング」。ショーターのお馴染み「YES・OR・NO」、シルバの「ピース」。田中オリジナル「MT」はアグレッシヴな曲。何と田中は“ふぐ”を飼っているという。聞いただけで痺れが回るが、小さな観賞用で暗がりで目が光るのだそうだ。それを曲にした「アベニー・イン・ザ・ダーク」。ガレスピー「コン・アルマ」、マクリーンの「DIG」、など。そういえばブルースをやっている時に、池田が“イン・ザ・ムード”のテーマをハメ込んでいたのには結構ニンマリだ。折角なので、Trioについて付け加える。田中に池田と共演の感想を訊いて見た。初共演だけれど池田さんをよく聴いています、とはぐらかされてしまったが、日頃色々な取組みをしているのだろう、1日目から2日目に向かうにつれ、冷静さと思い切った踏み込みがバランスし、適応力をたっぷり見せ付けていたことは記憶にとどめる。若井と西村は、毎回やることやっていくなぁ、だ。そろそろ若き名演請負人と言うべきか。
池田の真綿で暖められた音が、適温となってこちらの体内に伝えられてくるかのような2日間であった。こうした味わいを生で聴く喜びはこの上ない。そう思いつつ、ここのところ池田を語ろうとすると力みが入り過ぎる。今まさに、抜き方を池田から学ばなければならない。
(M・Flanagan)