2019.2.15 松原・若井・金の卵S カルテット

松原慎之介(as)若井優也(p)富樫諒(b)高橋直希(ds)
松原がまだ中学から高校のころ、楽器を携えながらライブのかぶりつき席にいるのを何度か目撃したことがある。その少年が数年の時を経て、あの時演奏していたミュージシャンと場所も同じLBで共演できることに本人が感慨を持つことは、晴れ晴れしい話だ。かつて、LBは飛び入りに寛容な時もあったが、近年はそれに違和感を持つお客さんに配慮して、ほぼ禁じられている。松原もそのルールの壁に泣いたこともあったと思うが、今や壁の内側に陣取るまでになっている。最初に演奏曲から紹介しよう。「Everything I love」、「East of the Sun」、「You taught my heart to sing」、「High-Ace」(オリジナル)、「Giant Steps」、「Peri’s Scope」、「Turn out the stars」、「Rhythm-a-nig」、「Star dust」などスタンダード、準スタンダードを中心に並んだ。
松原が日頃どんな活動をしているのか知らないので、今日に限って言うと松原の音には彼の匂いのようなものがあり、音回しもスムーズで質感も伴っていると感じた。まずは、そうしたことを認めておこう。その上で良し悪しは別として、聴きながらバラードのところで考えさせられた。彼は燻し銀のようにプレイしており、聴かせどころのツボを知った演奏をしていた。人によって“なかなかのものだ”或いは“今こういう演奏するの?”というように印象は分かれるかも知れない。筆者はその両方を行き来していた。これをどう理解したらいいのだろうか。松原はいま多様なことを貪欲に吸収している過程にあるのだろう。多様性に対応できればできるほど、演奏の仕方次第で殆ど解決できてしまうということかも知れない。こういう状態は、演奏家が頭角を現す時に否応なく出て来ることで、特に珍しいことではないと思いながら、LB文化史に残る偉人の慧眼「技術にようやくやりたいことが追いついて来た」という演奏家への査定を思い起していた。彼がこれからどの様な未来に向かって行くのかは計り兼ねるが、回り道が最も近道であるという条理の一歩を、見栄えのするキャノンボールな体型で踏み出したのだと思う。
共演者について少々触れよう。松原と共演することも結構あるらしい若井は久しぶりの登場になる。今回はボーカルのバッキングをしているようなところが最も楽しめた。そして、ここのピアノから引き出される知性的な瑞々しさには、何度もハッとさせられてしまった。富樫(b)と高橋(ds)は、エネルギーを発散したくてウズウズしている様子が見て取れ、ある部分において、この金の卵二人が一番目立っていたのではないか。
 若手のライブ企画は最近のトレンドになっているとは云え、この日は年齢的に極限の若者が起用されていて、何となく救われたような気分になった。ふと、BST(ブラッド・スエット&ティーヤーズ)に“微笑みの研究”という曲があったのを想い出していた。数年後には彼ら(松原・若井を除く)が微笑むか否かの研究結果が露わになることだろう。それを楽しみに待っているとしようか。
(M・Flanagan)