2019.5.3 松島啓之の嬉しいTPP

松島啓之(tp)本山禎朗(p)柳真也(b)舘山健二(ds)
トランペットを聴く機会はそう多くはないが、毎年やって来る松島によって、この楽器はやはりJAZZの花形であることを印象付けられてきた。松島を聴きに来る人々は同様の印象を持っておられるのではないかと思う。JAZZファンは結構得手勝手なところがあり、ギターは聴かない、ヴォーカルも聴かない、フォービートしか聴かないなどという人もいる。好みというのは個人に独占権があるのでケチの付けようがない。かく言う筆者も松島が関わるルパンや熱帯を殆ど聴いていないので、偉そうなことは言えない。話は変わるが、確か松島はC・ベーシーを聴いてJAZZに開眼し、ブラウニーやL・モーガンに多大な影響を受けたというのが音楽人生のイントロだったと思うが、この日もC・ブラウンで有名な「神の子はみな踊る」、モーガンが十代に吹き込んだ「PSアイ・ラヴ・ユー」が採りあげられていた。松島の聴きどころはバップを消化し切っていることはもとより、その突き抜けるような音圧や艶やかな音色にある。それが聴きながら“いま私たちはいい場所にいるな”と思わせてくれるのである。繰り返し聴きたくなる演奏家には、必ずそう思わせる魅力が潜んでいる。例えば「ライク・サムワン・イン・ラヴ」のようなバラードにおいては“長い年月”によって蓄積された質感が伝わって来て、深く聴き入ってしまうのである。その“長い年月”を確かめようと、翌日、松島が28歳の時にリリースした初CDを聴いてみることにした。音のコクに違いがあるとはいえ、それを払拭して余りある演奏力は実に見事なものと感じた。若い時には若い時の良さがあることを再認識した。その他の曲は、帝王の「マイルス・アヘッド」、名盤“オーバーシーズ“に収録されている「エクリプソ」、スタンダード「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」、松島初期のオリジナル「トレイジャー」、「ジャスト・ビコーズ」それと熊本の震災直後に作ったという「リトル・ソング」、T・ジョーンズの佳曲「レディー・ラック」、C・パーカー「オーニソロジー」が演奏された。トランペットの優先道路というか、トランペットで決まりという曲がある。この日は、そうした曲がズラリと並べられた。これら嬉しい曲の一覧表をトランペット・プログラムといい、略して”TPP“と云うのだそうだ。
 ところで、演奏された「オーニソロジー(鳥類学)」は、C・パーカーがバードの愛称に引っかけて名付けたものであるが、その後J・コルトレーンが“ブルー・トレイン”の中に新種の「レイジー・バード」を収録した。時を経て、「レイジー・バード」はJAZZの発信基地として札幌の鳥類図鑑にその名を留めている。これは史実に即した作り話だが、「鳥類憐みの令」も支援するJAZZ文化の保護区から良質なライブがますます飛び交わんことを願う。
(M・Flanagan)