2021.11.17-18  本山禎朗 2021 ジス・オータムのカルテット&トリオ

11/17 鈴木央紹(ts)本山禎朗(p)楠井五月(b)小松伸之(ds)
11/18 山禎朗(p)楠井五月(b)小松伸之(ds)
 この二日間は小松伸之週間の大詰めに位置している。筆者は小松の隠れファンなのだが、この両日に絞らせて頂いた。この二日間の選択は、荒くれ少年の告白に意中の少女が返す定番のセリフ「私にも選ぶ権利があるわよ」というのとは違う。過去に同じメンバー編成のライブがあり、その延長線上に眺められる本山の姿を確認しようという動機が働いているからである。昨今の本山から充実感が伝わって来ると思うリスナーは少なくないだろう。場数と研鑽によって彼は自らが意図する音楽表現を今では手に取るように出し切れているように見えるのだ。東京から来るミュージシャンとの共演は、過去において遠慮や自重が見え隠れしていたこともあったが、今それはない。今日に至る変遷と今日の演奏とがオーバーラップすると、音が音以上の装いを伴ってやってくる。今日は本山の音を聴き逃さないようにしようと、東京連に向きがちなこれまでの聴き位置から一旦座り直すことにしたことに誤りはないように思う。1日目はあの鈴木央紹入のカルテット、2日目はトリオという編成で、その違いも上々の組合せとなっている。カルテットの日は、予想通り我が国ジャズシーンの中央にいる鈴木がやはり圧巻の演奏を披露したことだけは言っておかねばならない。演奏曲は後にするが、とりわけ「Misty」における本山の演奏は、血がかよっているなぁと思いながら聴いていた。「本山これだよ」と呟いていたかもしれない。皆んなが盛り上がるアップ・テンポの曲も本山はフレームの強さを感じさせる隙のない演奏を繰り広げていた。トリオの日は当然ながらリード奏者がいない分、自由度が高められねばならない。そもそもピアノ・トリオはp・b・dsによる典型的な編成がなければピアノは随分困ったことになった筈だが、そうではなかったために激戦区になっている。多くの名演が残され、それとともにピアノ・トリオファンも大勢いいるだろうから、演っている側にしてみれば実は相当な重圧を感じているに違いないのだ。そこを攻略するには脇を固める連中のオリジナリティーが欠かせない。その意味で楠井と小松との取り合わせは申し分ない。両者とも辛島サウンド体験者なので緩むはずがないのだ。個人的にはもっとバラードを、と思っていたが良しとしよう。どの演奏にも温度・彩度・強度がバランスしていた。これ以上は脚色が過ぎてしまいそうなので、先を急ぐが、本山はソロ、フリーなどを含め多岐にわたる取り組みを行っている。それらが積分されて新たなる本山の立体世界が出現することを期待している。カルテットでの演奏曲は「Witch Craft」、「We See」、「Misty」、「Hey It’s Me Talking To」、「Laura」「Serenity」、「Long Ago&Far Away」、「Woodin’ You」、「I’ve Never Been In Love Before」、トリオは「Embraceable You」、「Boplicity」、「Pensativa」、「Worm Valley」、「Butch&Butch」、「Midnight Mood」、「All The Things You Are」、「Fingers In The Wind」、「The Song Is You」、「It Could Happen To You」。
 最近は来札する東京ミュージシャンのライブに限定した聴き方になっている。それは理由あってのことだが、2021の秋は地元の本山に拘ってみて、色々考えることができた。いつも冷静を味方につけていた印象のある本山だったが、この二日間で思ったことは、本山のネライは冷静からの脱却にあるのではなく、冷静自体を燃焼させることなのではないかということだった。去りつつあるジス・オータムのメッセンジャーから一言あるそうだ。MVP(Motoyama・Valuable・Pianist)。通過点として聞き留めてくれよな。
(M・Flanagan)