2021.9.24-25  鈴木央紹3 Groove Struttin’ !

鈴木央紹(Sax)宮川純(H.Org)原大力(ds)
レイジーでは幾度も素晴らしい演奏に巡り逢っているが、今回3年連続となるこのハモンド・オルガン入りは他になく、稀少さなどという次元を超えて、初聴き時に筆者の体感メーターの針が右往左往していたのを思い出す。それは以後も変わりはない。では、トリオ・サウンドを思う存分味わうこととしよう。予め演奏曲を紹介しておこう。「Solar」、「No Moon At All」、「Babbles,Bangles&beeds」、「Dolphin Dance」、「Detour Ahead」、「My Heart Stoods Still」、「If I Should Loose You」、「Love Walked In」、「How Long Has This Been Going On」、「You’d So Nice To Come Home To」、「The Ruby&The Pearl」、「The Favourite」、「Some Other Time」、「So In Love」and「All Of Me」。中には知らない曲もあるが構いはしない。聴いた後で、唐突に思い出したことがある、“ジャズに名演有りあり、されど名曲なし”という誰が言ったか知らないが、相当前に発せられたセリフである。“名曲なし”については歴史的事実に反するが、“名演あり”については日々発現している。従って、そのセリフの半分は妥当性を失っていない。いったい何処から何処までがジャズなのかという問いがあるとすれば、”演“が感じられるかどうかに尽きると言ってよさそうだ。裏を返してそれ以外はジャズあらずといえば言い過ぎか。トリオの話に戻どそう。肝心のこのトリオの聴きどころについてである。バンマスの鈴木については何度もレポートして来たので、何度も類似したことを述べてきたのだと思う。それは名盤は何度聴いても飽きないことと似ている。手短に言うと、彼の演奏は兎に角捉え方の大きさにある。これは実力者たちの共通域であるが、そこにおいて鈴木を決定づけているのは、圧倒的なニュアンスの多彩さである。街場の風景によれば、鈴木食堂に行列ができるのは、丹念に仕込まれた下味をベースに多種多様な具材が”瞬時に“出てきてしまうところにある。形容語は過去に使い果たしてしまったが、毎度々々凄いと言うより他ない。さて、オルガンの宮川だが、その演奏を耳にしたことのない人も多いかと思う。いきなり天才幅肌と言うのも興ざめだけれども、元々はアコースティックの演奏家がハモンドに執着しているのは、優れて本人望むところとこの楽器と相性の良さによるものだろう。その演奏に対するこちら側は絶対鈍感に陥らないよう気を付けておけば、それだけで彼のグルーブを満喫できるのである。そして御大の原、この人は例によってドラマーの役割意識とドラムスの音がそっくり連動しているので、気持ちの良いい音を叩き出す才において人後に落ちない。勿論、この気持ちの良さは、トリオのサウンド展開において隠れもしないのである。(ナイショ話だが、とても蓬莱の定食で胃もたれを引きずっていたとは思えない。)演奏が終わってから耳をそばだてていると、“You’d be so~”と“All of me”は、歌で取り上げられることも多く、私たちは割と構えないで聴いていることの多い曲だが、プロにとって難曲に位置づけられるのだそうである。素人としては聞かなかった振りをしておく。結局この鈴木央紹トリオ、ヴァリュアブルだ。
 これから少々広報的なことを申し上げる。今年の追い込みラインナップは重鎮はもとより、中堅・若手のスゴ腕がライブ・スケジュールに掲げられている。ベースでは楠井、若井にまとまった日が用意されているようだ。また、ドラムも鮮度の西村匠平、札幌のプライド竹村一哲、そして筆者が隠れファンを自認している小松伸之も来る。おっと、鈴木の再登場もある、壷坂も来る。例年以上に冬支度が後手に回りそうだ。なお、標題は、ソニー・クラークのマスト盤から拝借。鈴木トリオのGrooveがStruttin’、少々誇らしげに歩いているぐらいのことだ。あのジャケットの足運びのように。
(M・Flanagan)