2022年 レイジー・バード・ウォッチング

<前半戦>
 今年の序盤は記録的大雪との戦に敗れ、腰が制御不能の危険な関係の状態になって、丸1カ月くらい聴き逃しのブランクを作ってしまった。確か年始は楠井のトリオで好スタート切ったかに思われたが、まさに腰砕けとなったのが悔やまれる。自分の実生活LIVEはほどほどにする。その後、2月の中頃から復調し、何とか松島のLIVE(ts岡、ds原が参加の5tet)に間に合ったので、この時のことはよく覚えている。松島の突き抜ける演奏は湿布よりマインドの復活に効き目があったと実感したものだ。引き続き原は残り古典派LaCordaと共演した際に、演奏の外でショパン(Chpin)をチョピン、バッハ(Bach)をバッチとくすぐっていたのが年末の現時点では懐かしい。原はプレイも喋りも痛快。次に地元札幌の青年?将校本山が奇しくも2.26にソロ・アルバム「As it is」のリリース記念LIVEを挙行、このアルバムをもとに入魂のSoloを聴かせてくれた。因みに本山は札幌ジャズ酒場放浪記なる配信活動を斎藤里奈とともに実行し、ライブ環境の側面支援に努めたことを付記しておく。3月にはLBの血行改善に欠くことのできぬ重要構成員の鈴木央紹が登場(ds西村)、例によって聴き流しを許さぬ重厚然とした演奏を残していった。一気に融雪が進む。そして4月には17周年記念。久し振りの本田珠也企画だ。ピアノはOwl-Wing-Record を主宰し、貴重な音楽記録を後世に残さんと精力を注ぐ荒武、ベースは巨匠米木によるトリオとtb後藤篤が加わったカルテットのセッティング。リーダーは荒武が務めたように思うが、これだけの個性が揃うとムダ口を叩いている場合ではないとういうLIVEの見本。5月は壺阪健人トリオ(b三嶋、ds西村)。外見的には壺阪と他の2人は家柄が違うなと口が滑りそうになるが、人は見た目で判断してはならないという普遍的な教えに立ち返らねばならない。演奏が始まると繊細かつ大胆に後ろと巻きつき合う壺阪をジックリ聴くことができた。年の折り返しとなる6月、この月恒例の大石なのだが、交通トラブルで1日のみとなった。共演者の米木はエレベで望んだのだが、ウッドでのDUOとは異なる空気間感を確認できた。(いずれCD録音するらしい)。蛇足だが、何やらこの頃から「コロナ禍の中、お越し頂きまして・・・」という型通りのMCがなくなっていったように思う。今のB・ディランなら「時代は変わる」ではなく「時代を変える」と言うかどうか。
<後半戦>
 7月になると九州を拠点に活動するピアノの奥村和彦(b安藤昇、ds伊藤宏樹)がおよそ10年振りに来演、前回と同様に不動の力強さだった。なお、同行したVo.西田千穂は個性豊かな歌唱を披露した。カラだと思っていた財布に何枚か入っていた時のような思わぬ嬉しさ。国土の狭い日本の裾野の広さを感じたものである。この月の中頃に山田玲率いるKijime Collectiveに番が回ってきた。この連中の勢いは誰にも止められない。初聴きのtp広瀬、ts高橋の2管圧巻、充足感。帰り間際にCDとTシャツの押し売り被害に遇ってしまった。アキラは中々の商売人だ。数日後に鈴木央紹の長期戦、この日に合わせてワクチン摂取の日をズラして大正解だ。筆者が板前ならこんな切れ味の包丁を手放すまいよ。月末に本山と按田(fl)を聴いてみた。持ち替えではなくフルート1本ということに興味を持ったからなのだが、何やら心が清められた、知らんけど。8月は盆のド真ん中にカニBAND。予定の8人が一人増え二人増えそして11人。あまりの賑わいに地獄の釜の蓋がガタガタswingしてたな。加勢で参加し、カウンター内につけた丈造のソロは短かったが惚れ惚れさせるものがあった。月の終わりに加藤友彦トリオがやって来た。トリオの翌日から何と松島と鈴木が加わる。切り札二枚が投入されると盛り上がり系の演奏の熱気は破格レベルに達した。折角新調したLBクーラーが効いていなかったような気がした。それを気遣うかのような「Skylark」は心に沁みた。この両雄はダブル王手を掛けて譲らず、そのまま9月に突入して行ったのだった。そして時は10月、1年をマラソンに例えれば35キロを過ぎて一番キツイ頃合だ。吸水ポイントで真っ先に手を伸ばしたのが(Jazzの)LUNAだ。珍しくも今年はこれが初登場。2日間1曲も被らせずに全うし、女の意地が淀みなしに伝わって来た。これはb若井俊也とp田中奈緒子による初トリオで組まれたものだったが、若井は最早多言を要しないとして、特筆すべきは田中の歌バンの上手さだ。LUNAがいつかまたこのトリオで演りたいと漏らしたのも頷ける。いよいよ晩秋にはようやく池田篤に出番が回ってきた。この時は本山がリーダーとなってb楠井、ds原という垂涎の編成。出演回数では米木に二馬身ぐらい差を付けられているとは云え、池田は堂々の単独2位に付けている。近頃は振興勢力の追い上げがあるとはいえ。池田はLB年譜の要所を占めてきた誉高きプレイヤーであることに揺るぎはない。思い入れが先行してしまったが、一つだけ言うと本山の愛奏曲「Fingers In The Wind」の池田はこの曲に新たな命を吹き込んだといっていい。強く印象に残る。11月は珠也4daysと.Pushの駅伝形式で、タスキ渡しを魚返が担うという 豪華リレーとなった。魚返は間違いなく重要な位置にいる。そして最終12月。大口・米木DUO。ここに見えるのは築かれてきた壁の高さであり、怠りなく手入れされた庭園の佇まいだ。息つく間もなくLUNAの百変化ショー、特命任務を完遂するアビリティーに喝采するしかないな。締めくくりは郷土の至宝竹村一哲が率いるBAND(井上銘g、魚返明未p、三島大輝b)。都合3度目になるが、これを聴かずに年を越すことは出来ない。メンバー同士がその場で驚き合うような圧倒的パフォーマンスだ。同世代の密集した能力が創り出す絶大なる成果を観てしまった。このLIVEを聴いて日が浅いせいもあるが、一哲BANDを聴けただけでも2022年は良い年だったと思えるほどのインパクトだった。
 ところで私たちは「何色が好きですか」とは言うけれど「色は好きですか」とは問わない。しかし、「どんな音楽が好きですか」も「音楽は好きですか」も成り立つように思う。筆者は「生演奏が好きです」とだけ言っておこうと思う。何はともあれ、今年も様々な編成のLIVEに恵まれ、語り継ぐべきLIVEにも出逢えた。2003年もまたそういう「生演奏」に巡り逢えることを願って止まない。
(M・Flanagan)