2023.2.17-18  鈴木央紹4&3 秘伝の『My Shining Hour』

鈴木央紹(ts)渡辺翔太(p)若井俊也(b)竹村一哲(ds) *二日目はドラム・レスのTrio
 今回のLIVEについては結構前から知っていたので、待ちに待ったという胸中だ。当初の予定では二日間ともカルテットだったのだが、同行するはずの山田玲が都合により欠演となったため、代わりに竹村一哲が参加することになった。災い転じて福となったのである。それはさておき、鈴木のLIVEを振り返ってみると、スランダードや準スランダードがよく採り上げられている。このことは一面ファン・サービスでありながら、そこには明確に別の意味合いがあると考えてよいだろう。少しばかり余談から本筋に向かって行こうか。私たちにはお好みの曲というのがあって、色々な演奏家や編成で聴いて楽しんできたに違いない。個人的には例えば”Whisper Not” が収録されているレコードを見つけては、持ち帰って聴き比べていたことがある。そこには何度聴いても唸らされるものもあれば、年がら年中コロッケを食わされているような飽きのくるものもあった。同じ楽曲から感じられるこの差は一体何なんだろう。必然的に演奏とはそしてそこに生ずる差をどうう思うのかと襲いいかかってくる。原曲と演奏家の関係から何が視えるだろうか。一般に物事の辻褄に納得することを「理解」すると言うだろう。これと似て非なる「解釈」するという想像力に属する次元のことがある。ここでようやく鈴木についての手がかりまで辿どりついたかも知しれない。「理解」は横並びにつなぎ合わせても成立しそうだが、「解釈」は深化する方向に進路をとらざるを得ないように思う。彼は原曲に敬意を払うことを最も大切にしている。そこから繰り返し原曲の未来像を引き出そうとしているに違いないのだ。鈴木にとって「解釈」の徹底が演奏することであり、聴き手が同一曲に飽きがこない理由はそこにある。だから彼にとって”All The Things You Are”はいつも新曲なのだ。今回も能書き許さぬ演奏集となったのだが、それは鈴木の突出した「解釈」力にあると結論づけよう。やれやれ、いつも楽しみにしている彼のバラードの聴き応えは格別だったことを付け加えておきたい。では演奏曲を紹介する。まずカルテット。「I Love You」、イントロ早押しクイズなら”キラー・ジョー”と言ってしまいそうな「Along Came Betty」。照れくさいが20ほど若かったら惚れっぽい男を演じてみたくなるような「Be My Love」、モードでない方の「Milestones」、「Reflections」、「Like Someone In Love」。三曲続けて翔太作品「Color Of Numbers」「Pure Lucks In Bear’s House」「かなめ」、初見で譜面に噛り付いてしまったと鈴木は後で微笑んでいたが、実際これらは脅威のパフォーマンスといえるものだった。次はトリオ、「Long Ago&Far Away」、G・グライスの「Social Call」、「I Love You Porgy」、「Four」、「Sweet Lorraine」、「Autumn Leaves」、「It’s Easy To Remember」、「I Should Care」、「Bye Bye Blackbird」。古くも新しい名曲のフルコースだ。
 よく江戸の時代からつぎ足し続けて200ウン十年、守り続けた秘伝のタレなどという老舗の看板セリフを見聞きする。筆者は鈴木のLIVEを聴いて僅か10年余りでしかないが、秘伝の生聴きが底をつかぬよう、毎年つぎ足しつぎ足し、いや紹たし紹たし聴き漏らさないよう心がけている。そしてこの二日間、秘伝のひと時にどっぷり浸かった。思わずタレのラベルをボレロから『My Shining Hour』に書きかえておいた。
 なお、この前日となる2.16には渡辺翔太Trio(翔太、俊也、一哲)のLIVEがあり、聴く機会の少なかった翔太の演奏に三夜向き合えたのは収穫だ。彼の演奏個性が確かめられたのだ。曲目を添えておく。「歩く」「But Beautiful」「金曜の静寂」「かなめ」「We See」「Tones For Joan’s Bones」「Lullaby」「Equinox」「Body&Soul」「Smile」「Her Marmalade」。
(M・Flanagan)