「スクールデイズ」 ロバート・B・パーカー著

スペンサーと言う私立探偵が活躍するハードボイルド小説でシリーズ化されている。一作目が出てから優に30年は経っていると思う。20作目位までは新刊が出るとすべて読んでいたが一度離れてしまった。この「スクールデイズ」の間に5,6作あるようだ。曖昧な紹介で話を始めるのは心もとないが調べるのが面倒くさい。古今東西有名な私立探偵は多い。ダーシル・ハメットのコンチネンタルオプ、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ、ロス・マグドナルドのリュー・アーチャー、ミッキー・スピレーンのマイク・ハマーそして原遼の沢崎。それぞれ個性的だ。マーロウは陰影に富んだ人物として書かれているがスペンサーは分かりやすいキャラクターである。マーロウがT・パーカーだとするとスペンサーはP・ウッズを通り越してバップの大衆化を目指したチャーリー・ベンチュラと言ったほうが良い。深みはないがわかりやすい。スペンサーはそういう探偵だ。現在のような閉塞感の漂う時期にはちゃんと仕事をしてくれる人に会いたくなる。そういったことでこの本を手に取った。
アメリカでは学内での銃撃事件が後を絶たない。「スクールデイズ」もボストン郊外で起きたハイスクールでの銃撃事件が発端である。犯人は最初から分かっている。二人の高校生で投降し自白もしている。謎ときのドキドキ感はない。逮捕された生徒の祖母が「孫は無実」とスペンサーに調査を依頼する。人はみな彼らの行動を動機づけしようとする。スペンサーは何が起こったのかを知りたいと理由だけで奔走する。犯人の親、学校の関係者、警察でさえも忌まわしい事件として葬り去りたいと考えている。事件の裏にある闇の部分が次第にあきらかになっていく。その過程は読んでのお楽しみ。400ページ弱のボリュームだが一日で一気読み。面白い。
ここではスペンサーの事を紹介しようと思う。体は大きい。身長も体重もシリーズのどこかに書いてあったが調べるのが面倒くさい。兎に角大きい。照ノ富士くらい大きい。多分。ヘビー級でボクシングをしていたことが有る。だから強い。強いと言いたいことが言える。「スクールデイズ」でもほとんどヤクザまがいの悪ガキをぼこぼこにしてしまう。おいおい小説とは言えやりすぎではと思う事もある。酒はバトワイザーが好きである。いも美ではない。以前はタバコも吸っていたが「スクールデイズ」では吸っていない。いつ辞めたのか・・・アメリカでも値上がりしたようだから・・・もらい煙草はしていないようである。偉い。探偵としては警官とも関係が良好である。裏組織にもコネがあって情報の収集が早い。と言う事は捜査が早い。ちょっとご都合主義の所があるが読者あっての探偵稼業だ。大目に見よう。今回は登場しなかったが精神科医の彼女がいる。知的で美人でちょっとセクシーだ。キャサリン・ターナーがハマると個人的には思っている。ホークと言う黒人のマブダチもいる。こちらもめっぽう強い。二人いるとランボーとターミネーターがタッグを組んでいるようでどんな悪の巣窟に踏み込んでも安心感がある。探偵小説、ハードボイルド小説と言うのは女性にあまり人気がない。マッチョイズムが横溢していたり逆に一人センチメンタリズムに浸っているからだったりする。だがこのスペンサーシリーズは女性にも受けが良い。登場人物にキャリアを積んだ生き生きとした女性が大勢いてスペンサーが敬意を払っているのがわかる。間違っても「女性がいると捜査が長びく」とは言わない。
数あるシリーズの中で「スクールデイズ」から読むのが良いかどうかは分からない。一作目から読むには数が多すぎる。「初秋」はお勧めできる。