ローマの休日と美容院

ローマの休日でヘップバーンが美容室で髪をバッサリ短くしてもらうシーンがあるが言いたいのはその事ではない。母親が年の割には美容室に行く回数が多いのだ。足が悪いので人を訪ねることも少ないし来客も月命日に経を読みに来る住職以外はほとんどない。別におめかししなくてもいいのではないかと思うのだが流石に口に出したことはない。通いだして半世紀にもなる美容室は歩いて5分の距離にあるが母親の足だと20分はかかる。ここ10年は車で送り迎えをしてくれ、帰りにお土産名までくれる。髪を切っている間話し相手にもなってくれているのだろう。昨日は病院を三軒はしごする日であった。車が有れば連れて行くのだが今はタクシーで通院してもらっている。母親にとっては一大事業でメッカ巡礼とお伊勢参りとガンジス川での沐浴を一度に熟すのに等しい。帰宅したか確認の電話を入れると疲れたが今回は比較的楽だったと言う。美容室の先生が車で送迎をしてくれたのだ。車椅子まで用意して介助してくれた。本当にありがたいことである。時々ご近所にも挨拶に行かされる。除雪をしてもらったりお裾分けを頂いたりしているのである。まだ地縁が残っている地域で母親もそういう事を大事にしているのだと思う。
「老婆は一日にして成らず」
今日は母親におかずを届ける日である。どうせ自分も食べるので多少量を増やして作るだけで手間は同じだ。母親は言う
「いつも、すまないね」
シャボン玉ホリデーではないので「おっかさん、それは言わない約束でしょ」とは言わない。
「作って上げれる人がいるだけで良いんだ」
あれっ。似たセリフの聞き覚えがある。ローマの休日でヘップバーンが新聞記者の自宅で目が覚めた時の会話だ。
「料理はできるの、でも作ってあげられる人がいないの」
言われてみたいわ!こんなセリフ
母親は昨日のワールドツァーの疲れを癒すべく休んでいるはずである。
「老婆の休日」