2017年12月 二者卓越 & ボイス・ビー・アンビシャス

2017年12月 二者卓越 & ボイス・ビー・アンビシャス
2017.12.7 DUO 大口純一郎(p)米木康志(b)  
小ぢんまりした老舗レストランにしかない重みと格調、大口さんの魅力である。数年前にこのDUOを聴いたことを生々しく覚えている。それは東日本大震災のあと、東京から東北各地を経てツアーの締めくくりが札幌だった時のことだ。この国が極度に張りつめていたことと演奏の関係は問わないにしても、筆者が聴いたピアノ・ベースDUOの生演奏でその後を含めてこれほど記憶に残ったものは珍しい。それゆえ開演前から気分が高ぶるのだ。最初の曲はエバンスの「タイム・リメンバード」だったが、大口さんの大胆な音使いは会心の切れ味で、後ろに回わった時のデコレーション・マジックに我々はハッとさせられる。待ちわびていたことが惜しげもなく進行していく快感に浸るしかない。曲名は分からないが、米木さんの長尺ベースから始まる曲があった。大口さんはその間うつむき加減に聴き入っていた。素人の目にはどう入るか探っているのだと見えた。だが、「米木のベース・ソロを聴いていて、子供の時に見た風景を思い出していたんだよ」。この後刻談にはいささか驚かされた。“病みつきになる”という言い方がある。それは聴き続ける年数に勝って記憶に刻まれた深さを尺度にした方が正しい時もあるように思う。大口さんは筆者にとってそういう演奏家だ。その他の演奏曲は、「イスパファン」、「ウェル・ユー・ニードント」、「アローン・トゥゲザー」、「ニュー・ムーン」、「ハイ・フライ」、「イマジン」など。何度も背筋がゾクゾクした。
2017.12.8 DUO&LUNA 大口純一郎(p)米木康志(b)&LUNA(vo)
 近年のLUNAはジャンルを超えた幅広い歌唱を提供し、LB芸能事務所の花形に躍り出た格好だ。しかし、スター街道にも不運が待ち構える。昨年の12月、LUNAは米木さんと共演するはずのところが、悪天候によりその願望は未遂となってしまったのだ。今回は自称リベンジ・シンガーの願いが叶うとともに、大口さんと初共演するという1等前後賞付きの大口ボーナスGetだ。ここのところ黄金のロックとボサノバの谷間に沈んでいた観のあるジャズ本流であるが、我が国の最高峰が後ろということで、スタンダード中心の選曲になった。聴きなれた曲であっても、気が入り気持ちよく歌っているかどうかで、聴き手への伝わり方に歴然と差がついてしまうが、今般、結果は言うまでもなく、心底晴れやかな歌いぶりであった。
運よく選曲されたのは「マイ・フェイバリット・シングス」、「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー」、「ヒア・ザット・レイニー・デイ」、「アイ・ウイシュ・ユー・ラブ」、「ヒアズ・トゥ・ライフ」、「ハンド・イン・ハンド」、「マイ・ブルー・ヘブン」、「ストリート・ライフ」、「マイ・フーリシュ・ハート」、「ハウ・インセンシティヴ」、「リメンバー」、「降っても晴れても」、義務曲「諸行無常」など。この日は奇しくも真珠湾アタックの日だ。始まる前は不吉な予感に襲われていたが、3DAYSの中日で勝ち越しが決まった。LUNA1日限りの熱唱にスタンディング・オベーション。
2017.12.9 DUO&高野 大口純一郎(p)米木康志(b)高野雅絵(vo)
 歌の生命線は自然な形で自己投影できているかどうかだと思う。いわゆる“書き譜”演奏のような歌はのど自慢の一種に過ぎず人の心を動かすことができないというのが、筆者のシンプルな基準である。前置きはさておき、数カ月前に高野を聴いた時、仕込みのダシが自家製になって来たという印象を受けていた。今回は、その印象の延長線上でやり切れるか?開演直後は伴奏美の極致のような後ろの音にやや上気している嫌いもあったが、最早、勝負に出る決断をするしかない。俄かに自分の軌道をモノにして行く様子は、ライブにスリリングな華を添えるものであった。LBマスターから“よいしょ禁止令”が出されていたが、この日はそれを跳ね除ける高野のベスト・パフォーマンスだったと言える。馴染みの曲が見事に生まれ変わっていたが、それらは「ソー・メニー・スターズ」、「塀の上で」、「カム・トゥギャザー」、「6月の雨;チルチルとミチルは」、「泣いて笑って」、「スパルタカス愛のテーマ」、「ジンジ」、「死んだ男の残したものは」、何とも壮絶な「both・side・now」、「ハレルヤ」、「ブリジス」で、他には何も残さなかった。
 さてさて、大口・米木3DAYSで三種混合を摂取した結果、格段に生命力がついた気分になった。二人の巨匠には卓越を卓越する次元の演奏を聴かせて頂いた。そしてそこに敢然と挑んだシンガーよ、ボイス・ビー・アンビシャス!
(M・Flanagan)