2017.9.30 チコ本田 ソウル・フィールズ・フォエバー

チコ本田(vo)加藤崇之(g) 
 「何を歌ってもソウル。」これは万人の声を代表した加藤のチコさん評である。その加藤によれば、30年ぶりのDUOとのことで幾分そわそわ感が窺われた。この“ブランク永い”をギター1本によってどう太刀打ちするのか、興味津々ななかで1stがスタートした。1曲目の「アイ・キャント・ギブ・ユー・エニシング・バット・ラブ」を聴いていて思い出したことがある。ロックバンド=ザ・フーのリーダーP・タウンゼントが言っていたセリフだ。「俺たちは音を絞り出しているんだ!」。この感覚は次のバラード「バット・ビューティフル」や続く「ホワット・ア・ディファレレンス・ア・デイ・メイド(縁は異なもの)」、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、「サムタイムス・アイム・ハピー」を聴いていても全く変わらなかったし、最後まで残っていた。このセット最後はその昔、珠也に歌って欲しいとねだられたという「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」、微笑ましいなぁ。2nd最初は、加藤が不用意に漏らした“フリーも結構やってるよ“の一言に引っ込みがつかなくなって、ギターのインプロビ゙ゼーション2曲、オマケが最初に付いているのも妙なハプニングだ。DUOに戻って、ファンキーの最高峰「マーシー・オン・ミー」、季節を導く「オータム・リーブス」。次は「トゥインキー・リー」という曲で日本のグループ・サウンズが歌っていた。どういう訳か50年ぶりくらいに聴いたのに直ぐ思い出した。この時、筆者はいかに記憶力のムダ遣いをして来たかが分かった。その次も個人的に懐かしい「ユー・アー・ソ・ビューティフル」、チコさんの静かなる激唱にジョー・コッカーも目を覚ましたことだろう。まとめ段階に入りスタンダード連発、「サニー」から「バット・ノット・フォー・ミー」、「ジョージア・オン・マイ・マインド」、「ユードゥ・ビー・ソ・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」へと流れて行った。アンコールは「ワイルド・イズ・ザ・ウインド」、この歌の主と思われるN・シモンとチコさんは似ていないが共通点があるような気がする。チコさんの歌唱に「ぐう」の音も出ず忘れるところだった。加藤はどうだったのか?このギタリストの創造力と適応力と技術力は、抜群の切れ味で「ちょき」の音が出ていたのだった(スベった)。真顔を取り戻して俗っぽく断言すると、このライブはチャージの2倍以上楽しめたということなる。
 ところで、チコさんのソウルとは何なのだろうか。黒人の声質や音楽のジャンルとは関係ない。歌心に秘められる深層部の伝わり方が、他のどのシンガーとも違っているところに何かありそうだ。もう少し突き詰めてみたい誘惑に駆られてしまう。収穫を得るためには英知より感性を持ってチコさんのソウル・フィールズに行ってみる必要があるだろう。では、フォエバーをイメージし、格調高く方丈記のイントロをもってエンディングとしたい。”行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず“
(M・Flanagan)