2019.11.15 松島啓之4 

松島啓之(tp)本山禎朗(p)柳 真也(b)伊藤宏樹(ds)
 ジャズ喫茶に通っていたころを思い出す。店側は特定の楽器編成に偏らないことを選択基準にしていたので、色々な演奏に接することが出来た。レコード店でも見かけないものも結構かかっていた。その記憶をぼんやり纏めると、管楽器は華だなぁということになるかも知れない。レコちゃん(レコードを選ぶバイトさん)が持ってきたものを、店主がその適否を決定するのだが、ああいう光景は懐かしいものだ。広範な盤選択の中でバップは暗黙のリクエストを受けるかのように、ターンテーブルに乗っていた。誰かが音楽には二種類あって、“聴いたことのある音楽”と“聴いたことのない音楽”だと言っていた。この分類は、あることに関しての体験や知見があったかどうかの区分に過ぎず、音楽の分類である必要はない。ジャズ喫茶の客は満足度を高めようと“また聴きたい”あるいは“聴いたことが無いのを聴きたい”という動機で、足を運ぶ回数を重ねていくことになるので、先の変な分類に当てはまる一面もある。前置きが長くなったが、ご存知のとおり今日演奏する松島は何度も来演しているが、それは回を重ねるに値する演奏をしてきたことの証左である。そして何といってもバップ感溢れる演奏が彼の聴きどころだ。バップというのは、リズムやコード進行の細分化等々で解説されるが、音楽的定義や分析は専門家に任せるとして、筆者風情には音から汗がほとばしり出る音楽であるというだけで事足りる。その世界を目の前で体現してくれるのが松島なのである。当夜も今日的バップを熱帯的に味わうことができたのであった。演奏曲は、松島の「ジャスト・ビコーズ」、「マイルス・アヘッド」、ガレスピー「And then she stepped」、「Peace」、B・パウエル「Oblivion」、ミュージカルBye, Bye Birdieから「A lot of livin’ to do」、松島「トレジャー」、P・チェンバースの「Ease it」、松島「リトル・ソング」、ドーハム「Lotus Blossom」、「オール・ザ・シングス・ユーアー」。この傑出したトランペッターの共演者の今日について一言。ここのところ本山の充実ぶりには目を見張る。“いよいよ来たな”と声を掛けたくなる演奏だ。柳の得意分野は外交である。成る程、どこのどんな相手にもケチのつく対応はしない。嘘っ気のない伊藤は今日も火中の栗を率先して拾いに行く気合がフル回転だ。
 ジャイアント・バッパーの熱い16文キック炸裂。松島や、なう松島や、いい松島や。三景Very・Much.
(M・Flanagan)