中本マリ (Vo) 長沼タツル(g)
「ここにおわすお方をどなたと心得る/先のレジェンド・シンガー中本マリさんに在らせられるぞ」。水戸黄門のエンディングである。だがマリさんは「頭が高い」と命ずることはない。こっちが拍子抜けするぐらい入場からフレンドリーなのである。これは姿を見せた瞬間からライブが始まっているということでもある。レイジーで聴くマリさんは実に10年ぶりとなるが、前回の盛り上がりの第2幕のようなオープニングだ。何でもマリさんは全国各地で地元ミュージシャンとの共演を続けているとのことである。今回は北海道ブロック選出・ギター長沼とのDUO、新千歳での初対面から僅か数時間とのことである。アット・ホームな雰囲気の中に、長沼がどうマリさんに応じていくかという緊張感もある。当のポーカー・フェイス長沼だってそうだろう。マリさんの客に語りかける三言四言が、それを和らげる。準備完了。名曲中の名曲がズラリ並んだので、早速演奏曲を紹介する。「Summer Time」、「On Green Dolphin Street」、「Give Me The Simple Life」、「Black Coffee」、「Blame It On My Youth」、「There Will Never Be Another You」、「Someone To Light Up My Life」、」「Yesterdays」、「Autumn Leaves」、「Come Rain Or Come Shine」、「I Could Write A Book」、「Misty」、「But Beautiful」、「Just Friends」、「Someone To Watch Over Me」。初っ端から、腹の底に声帯があるように湧き上がる声が迫って来る。長沼も何ら力みがなくスムーズに協調している。マリさんは曲間に手前のお客さんとグラスをカチンと合わせたりしている。歌っているとき、話術で繋ぐとき、ジワジワ聴衆の心を囲んでいく。会場全体のライブ化、これは客の共通体感だろう。インストなら、演奏一流スピーチ三流というのはよくあることで慣れているが、概してヴォーカルの人は総合力があり、2時間がスキなくデザインされていて大いに関心させられる。マリさんはかつて不朽の名作を世に放った人である。その日々は絶えず遠くに去っていく。いま至近距離に、全身をもって発声するマリさんの姿がある。ここには、過ぎ行く日々を冷静に受け入れながら、それを克服していこうとする張り詰めた覚悟があるように見える。マリさんは言う「まだまだ不完全、いつもが勉強なのヨ」。ころし文句が出た。長年の蓄積が重み深みとなって凝縮されている。私たちは嬉々として頬を崩しながら圧倒されるばかりだと言い切っておきたい。マリさんを思う筆者の歌唱評価は決して過大評価ではない。追い打ちをかけるように兎にも角にも惜しみなく全身が注がれたステージが終わりを告げていった。客席は満足感に包まれていて、疑り深くない筆者の目には全員が正しい人に映った。
マリさんは、開演前の腹ごしらえがオーバー胃袋とこぼしておられたが、熱唱の連続はその満腹感を消費し尽くしてしまったに違いない。食事を共にした長沼のプレイがそれに一役買っていたのは言うまでもない。(M・Flanagan)

