日本映画探訪記その8 大日本帝国

東条英機が主役でこのタイトルの東映映画と言う事になるといかにも人気のなさそうな映画と映るが必ずしもそうではない。東映はこの二本前の映画「八甲田山」で文字通り一山当てる。
この映画は日露戦争前のシベリア出兵を想定した冬季訓練を題材にしている。明治の戦争物は当たらないと言うジンクスを覆し大ヒットとなる。東映と言う会社は「極道の妻たち」のように一本当たると二匹目の泥鰌を狙いシリーズものにしたり同じタイプの映画を作る。「八甲田山」でシベリア出兵の訓練をしたからではないが実際ロシアと戦争をする「二百三高地」を制作する。これもヒットする。気をよくした岡田茂社長は何匹目の泥鰌を狙いに行く。「今度は太平洋戦争で行く。華々しく勝っている所を繋げて一本にしろ」と指示を出した。監督は舛田利雄、脚本は笠原和夫。「二百三高地」と同じコンビである。だが二人は社長の指示を守らなかった。華々しいところはシンガポール陥落の戦いだけ。サイパン島陥落、フィリピンでの敗走と凄惨なシーンが続く。「大日本帝国」と言うタイトルでは右からも左からも非難されるので戦争を知っているものとして伝えるべきことはちゃんと伝えると言う方針で制作したと舛田監督は言う。印象に残るシーンとセリフがあった。シンガポール攻略の戦いで抵抗していたのが中国人華僑の女性だったと知った時兵士は上官に聞く。
「せっかく欧米から解放してあげようとしているのになぜ日本に抵抗するのですか」
三浦友和扮する陸軍中尉はその答えをサイパンで理解する。白人であろうと日本人であろうと自分たちの土地を荒らすものは敵であると・・・・・。
この映画は日本の侵略戦争と言う面だけではなくアメリカの残虐さと言う面も表現している。民間人を助けるために投降を決意しジャングルから出てきた中尉が見たものはアメリカ人カップルがボールゲームをしている姿であった。だがその球状のものはボールではなく頭蓋骨であった。
玉音放送を聴いた国民が一言漏らす
「天子さまの一言で戦争が終わるのなら、なぜもっと早いときに言ってくれなかったんだべ」
ラストシーンはさあ、泣けとばかりに復員者と家族の再会のバックに五木ひろしのバラードが掛かる。手法は「二百三高地」と同じである。こちらはさだまさしが歌っている。