2018.10.13  イン・マイ・オウン・スウィート・ウェイ

清水くるみ(p) 米木康志(b) 
 くるみさんと米木さんと言えば、直ちに思い起こされるのはZEKだ。その次にLBで何度か組まれているピアノ・トリオだ。しかし、両者のDUOは初めてではないだろうか。DUO好きの者にとっては聴き逃せない。試合開始前からくるみさんの強烈アタックと後ろ壁から三歩前に位置する米木さんの地を這う音が聞こえて来るようだ。ドラムレスについては、以前、ギターの岡本さんが実感を込めて「ドラムが居ないと自由度が高まるが、居ないことによってドラムの有難みに気付かされる」と言っていた。この発言は非常に分かり易い。状況次第だが、ひねくれ者の耳にはドラムが居て欲しい時と、敢えて居なくてもいいように思うことがある。ここでは、それだけドラムは重要な役割を担っているとだけ言っておくに止める。では、順を追って簡単にこの日の流れを紹介しよう。最初はくるみさんお気に入りと思われる「ハンプス・ブルース」、のっけから彼女の重たくなり過ぎないブルース・フィーリングをじっくり堪能した。続いては本田竹廣さんのアレンジに基づく「ヒア・ザット・レイニー・デイ」で、竹廣さんのオーラが乗り移っていた。この日は出かけて来る前に竹廣さんのLP2枚聴いていたので余計に感慨深い。最近は聴き返すことがなくなったミュージシャンが結構いる。この人ファラオ・サンダースもその内の一人だが、ここで演奏された「ヒーリング・ソング」は軽快な中にも彼の黒光りを確認できるものだった。くるみさんのオリジナル「ソミソミド」は黒鍵乱用防止曲で面白い。F・ハバード「ウイズアウト・ア・ソング」では両者の丁々発止にフレディ-の熱気が打ち込まれていた。くるみさん自身過去にやった記憶がないという「ワルツ・フォー・デビー」だが、タイトな中に寄り添うくつろぎ感は流石。DUOの妙味が凝縮された「エヴィデンス」には満載の聴きどころに息を呑んだ。急に迷いが出て選んだのは「コンファメーション」。高速ドライブで駆け抜けた。静謐な「ラッシュ・ライフ」、ご主人の渋谷さん同様エリントンへの敬意を感じる。エリントン絡みでミンガスの「デューク・エリントンズ・サウンドド・オブ・ラブ」、そして「レイン・ソング」。ツェッペリンの曲をZEK以外で聴くのは初めてだ。更にウッドベースというのも貴重だ。タマ込められずとも空砲ならず!なお、既発の「ZEK!」は、ほぼSold・outの好評ぶりらしく、目下、第2弾を製作中とのことだ。前作にないあの曲この曲が入っている2枚組らしいので、ボランティア営業をしておきたい。
 開演前の予感どおり、野郎どもを凌ぐくるみさんの力強さと一部では何だか分からない凄さと評されている米木さんのナマ音の快感に誘われるまま、イン・マイ・オウン・スウィート・ウェイにたどり着かせて貰った。ここは戦ならずとも快く白旗を揚げるしかない。ところで“戦争は始めたいときに始められるが、終わらせたいときに終わらせられない”と指摘した先人がいた。キナ臭いのをやめて“戦争”を“ライブ”と置き換えてみてはどうか?ライブの終わらせられない余韻に酔いしれながら、帰り路は満天下でシリウスの光を浴びて、実に足元がよろけてしまった。
(M・Flanagan)