2018.6.1 “あにやん“ はからんや

清水末寿(ts)田中朋子(p)瀬尾高志(b)小山彰太(ds)
 正直にいうと、清水末寿という名も“あにやん”と親しみを込めて呼ばれていることも知らなかった。聴く機会の少ないテナーサックスのライブということが、興味の全てであった。初めて拝見したその姿はかなりの年齢と思われ、よって今日は手堅くスタンダード中心の円熟ライブになるのだろと予想していた。1曲目はS・リバースの割と知られた「ベアトリス」であったが、その太く勢いのある音が先の予想を早くもぐらつかせ始めた。2曲目はD・マレイの「カレ・エストラ」。明るく軽快なメロディーを明るく重量感のある演奏に仕上げていた。3曲目は朋子さんの「潮流」。この曲はGroovyレーベルの世界遺産「サクララン」に収められている。ライブで聴くのは相当久し振りで感慨深い。なお、“あにやん”はこの曲名を「恐竜」に聴き間違いしていたそうな。4曲目は「よさこい節」。“あにやん”は東京を離れ長く広島を拠点に活躍されているとのことだが、出身は高知なのだそうだ。その「よさこい節」、前半はこの民謡の正調からスタートするが、途中から“あにやん”のアイデンテーが曲に襲い掛かり、土佐の酒呑み衆の果てしないバトルへと変貌していく。それを待ち構えていたショータさんが和太鼓の地鳴りのごとく大宴会を揺さぶり続けていったのだった。このアイディアに最敬礼。2回目の最初は朋子さんの「ジャックと豆の木」。タイイングの合わせづらい難所がこの曲の魅力である。頭の僅かなズレも何のその、“あにやん”はソロに入ると事も無げに吹きまくったのだった。2曲目はベース井野さんのO・コールマンが書きそうな「ディー・ディー」。演奏もフリーな感じだが“あにやん”は懐が深い。この人は至る処で経験値を加算していったことが窺える。ライブのまとめはブルース2曲、R・カークの「レディース・ブルース」とエルヴィンの「E・Jブルース」。ブルースはその形式のシンンプルさ故に危険でもある。隣席の年配男性が呟く。「こんなブルースをやってみたいものだ」。そう言わせるぐらい濃厚なブルースであった。アンコールは名物ショータさんのハモニカ付き「ファースト・ソング」。相変わらず全力投球の瀬尾の力演と珍しく鍵盤ハモニカを駆使して彩を添えた朋子さんのことを付け加えておく。
 思いもかけぬ素晴らしいテナーを聴かせていただいた。楽器を志した時の意気込みが今なお維持されている人だと思った。予想が覆った時に“あにはからんや”という言い回しがある。“あにやん”に敬意を込めて今回の標題とした。 
(M・Flanagan)