2018.6.8 本田珠也トリオ/「珠冴える」

守谷美由紀(as)須川崇志(b)本田珠也(ds)
 今回のライブは「SECOND COUNTRY」発表に伴う北海道ツアーの最終直前でのもので、このアルバム・タイトルにもなっている曲は本田竹曠さんの“浄土”に収録されている。
本田珠也は継続的に幾つかのバンドに関わって演奏活動を行っているが、このトリオには本音中の本音を注いでいるように思われる。ライナー・ノーツの概要として、一つにはこれからの世代が様々な取組みを行っていることに対し、その多くを必ずしも好意的には見ておらず、むしろ、只管汗を掻きもっと腰の座ったものを見出していくべきだと喝破していること、いま一つは借り物ではない自らの精神的風土たる“和ジャズ”の体現である。ツアー用の広告に大きく書かれている『破壊と叙情』とは、このことを指しているのだろう。1回目はアルバムからの曲がズラリ。1曲目は「ハーベスト・ムーン」、この曲は収穫のメルクマールである中秋の刈入期を素材にしている。量より収穫の質を主張する守谷のオリジナル。2曲目も守谷の「M’sジレンマ」、張り詰めた「ギクシャク感」を味わっては?とこの曲は訴えている。なお、Mとは守谷のMではないらしい。3曲目も守谷のバラード「むかしむかし」。郷里の淡い原風景に色彩を付けていく須川の控えめなサポートが素晴らしい、その地には緩やかな川が流れているに違いない。4曲目は珠也の手による「キー・マン」。彼はこのトリオのために書き下ろしたのではないだろうか、三者のバランスが見事だ。2回目の最初はA・ペッパーの「レッド・カー」。苦境の人生を送ったペッパーは晩年、厳然たる演奏を残しているが、守谷のペッパー観を垣間見せるタイトな演奏だ。2曲目のアルバム・タイトル「SECOND COUNTRY」と3曲目の「宮古高校校歌」は一つの連続性において聴くべきだ。とかくソロに関心が向きがちな珠也の演奏だが、ここでのバッキングは壮絶。竹曠さんのDOUN TO EARTH精神が息づく。“和ジャズ”を極めることがインターナショナルな次元に道を付けるのだ。4曲目は、LBと珠也と臼庭のバミューダ・トライアングルから「アンチ・カリプソ」に点火。危険な選曲とヤバイ演奏の同時爆発に目が眩んでしまった。追加曲はゴスペルのスローな「ディープ・リバー」から超高速「オルフェのサンバ」へと快心の流れで終了した。付記しておくが、須川には耳慣れない展開が随所にありいつも新しい印象を受けている。また、神経が埋め込まれているようなアルコも出色だ。リードの守屋だが、彼女の演奏をおよそ1年前に聴いている。アルトが席巻する今日ではあるが、表現の奥行において守屋は一頭地を抜いたレベルにあると思う。今後も伸びしろに叙情の音を託して欲しいと願う。
珠也はピアノレス・カルテットの「TAMAXILLE/タマザイル」というバンドを率いている。それに因んでこのピアノレス・トリオの方は「珠冴える」とさせてもらった。
なお、翌日は札幌で堅実に活躍している田中朋子さんと岡本さんがトリオと合流したSpecial-QuintetのLive。朋子さんのオリジナルを交えた演奏曲は「アローン・トゥギャザー」「アイ・ミーン・ユー」「ヴェガ」「道草」「ジャックと豆の木」「アイル・キープ・ラビング・ユー」「祝!」「レディース・ブルース」。詳細は割愛させていただくが、朋子さんも岡本さんもそしてトリオも完全燃焼の様相を呈していた。熱気の渦に包まれていたフルハウスの会場も至高のひと時に酔いしれていたことを報告しておきたい。
(M・Flanagan)