2018.9.21 荒武カルテット+α

荒武裕一朗(p)山田丈造(tp)三島大輝(b)竹村一哲(ds)
 このカルテットによる初ライブがセットされたのは今年の2月、しかし荒天の影響で荒武と三島の到着が遅れ、1ステは珍しい山田と竹村のDUO、2ステがカルテットの変則進行となった。その時だけでも荒武の力量は十分伝わってきたが、心のどこかで生煮え感を引きずってしまったのも事実だ。それから半年余りの今回は、前ノリでやって来るという気合の入れようで、ここに全貌が明らかにされていくところとなった。
選曲はオリジナル、スタンダード系、知る人ぞ知る曲を三面等価に配した構成となっていた。まずは、オリジナルだが、目まぐるしき人生のような「トーキング・ジャンクション」、河川が放つ大らかさと抵抗しがたさの「閉伊川」、叙情とノリノリ感を融和させた「夕焼け」は騙されたもの勝ちのような曲。いずれも奇をてらわない荒武等身大の演奏で、彼のオリジナリティーを強く印象付けた。
スタンダードは「ザット・オールド・フィーリング」、「アイ・フォール・イン・ラブ・トゥー・イージリー」、「サマー・サンバ」、「ザ・グッド・ライフ」が採り上げられた。後世に残されている名曲はビギナーからプロまで世界中で演奏され尽くされており、演奏家のイマジネーションがなければ、one of themに吸収される危険性が極めて高い。そこにハットさせられる流れがあるかどうかが天下の分け目ともいえる。筆者は荒武を掴まえ切ってはいないが、彼のアーシー・アーシー・アーシーな個性は見逃していない。そして知る人ぞ知る曲は本田竹廣さんものである。本田さんを心底リスペクトしている荒武の演奏には至る所に竹廣さんの影響が横溢している。だが、荒武の野心は竹廣さんの追随者に終わることなく、自己実現を果すことだ。人は誰の影響も受けないことはあり得ないが、彼はパウエル派でもエバンス派でも竹廣派でもないARATAKEを目指しているのだろう。演奏曲は「シーロード」「ウィンド・サーフィイン」。いいピアニストだ。
竹村一哲の攻防兼備なプレイ、演奏に浸りきっている三島大輝の大器ぶり、どれもがライブに大きく貢献していた。ここで、もう一つ語って置かなければならないことがある。山田丈造である。彼は、早くから注目を浴びて来た若者の一人であり折に触れ聴いてきたが、このライブにおいて彼は飛躍的に完成度を高めていることを我々に見せつけたと言って良い。バラードを含め全曲にわたって圧巻の演奏だった。「荒武カルテット+α」とは?「荒丈カルテット」のことだ。
(M・Flanagan)