泡盛vol2
ここに来るのは十年ぶりかな。そうそうあの岩陰でやどかり探したんだっけ。穏やかな海だね。水平線まで比重の違うリキュールを静かに注いだように青の層が分かれている。思い切り深呼吸をした。空の浮かんでいるクロワッサンのような雲を吸い込んでやろうと思った。これが娑婆の空気か・・・・こんなこと女の子が言ったらおかしいかな?
私は羊田メイ。24歳
そうそう、白と紺のボーダーの水着を着てイルカの浮き輪に乗って引っ張ってもらっているのが私。
バーからプールを見ている人がいるでしょう。あの人が私のパパ。
ついつい昔に癖で手を振ってしまうのだけれどこっちの私は見えないんだ。
そう、もう私は死んでいるから。
誰かが思いだしてくれたら年に数回こっちに来ていい事になっているんだ。
バーの方に行ってみよぅと。パパまだ私の方を見ているね。もっと色々あったのにこんなこと思い出しているんだ。
人影が無いプールを見続けているパパに片足の無い女性が「どうかしました」と聞いた。
「いえ、一寸思い出したことがあって」
私も飲んで良いかな。615号室の部屋付けにしておくね。一杯ぐらい多くついていたってわからないよね。
泡盛のソーダ割りか。やっぱり土地のもの飲まないとね。一緒に来た新ちゃんとマー君元気かな。あまりあっちには出る機会が無くて。んーんー。何も怒っていないよ。少しずつ忘れてもらわないと駄目なんだって。
パパと呼んでいるけど実の親子ではないよ。家出同然で出てきた私を拾って使ってくれたと言う感じかな。あのお姉さんは片足が無かったけれど、パパも女の子を小さいとき無くしているので心のジグソーが一個足りなかったの。その、ジグソーの形に私が似ていたのかな・・・
もう行かないと・・・・・・。
本当は駄目なんだけど私が来た証拠残していくね。
テーブルのグラスを倒した。
「すいません」すぐにモップを持ったバーテンダーがやってきた。
テーブルと床を拭いたバーテンダーが「お客様のお品ですか」と床に落ちていたパーラメントのタバコをテーブルのに上に置いた。私はもう一度目を凝らしてプールを見たが、プールサイドにぶつかるかすかな波音だけしか聞こえなかった。