2024.2.16 田中菜緒子TRIO feat.平田晃一
田中菜緒子(p)平田晃一(g)若井俊也(b)柳沼佑育(ds)
緊急告知があったとおり、曽我部泰樹(ts)が都合により不参加となったことに伴い、噂のギタリスト平田が代役を務めることになった。筆者はあいにく彼を存じ上げなかったが、LBのホーム・ページには「若手NO.1の」と記されていた。信ずるしかない。豪快な曽我部のブロウに諦めを付けたとき、このNO.1からの受けた第1報は洗練だ。まだ20才ちょい超えのこの演奏家から総じて研ぎ澄まされたものを印象付けられた。思うのだが、あっという間に過ぎ去る思春の期の意識は生煮えの熱意をあからさまにしたり、思いの丈を静かにに煮詰めていったり、その中間に身を置いたりタイプは様々だろう。平田は一見静か派にみえて、そこには熱い派を潜在させているようにも思える。こうした混み入った思いに至らせしめたのは、平田が大人然とした演奏をしていたからだ。伝え聴くところに依れば、彼はB・ケッセルほかジャズ・ギターのレジェンドのみならず、ジャンルを問わず幅広く音楽遺産を耳に蓄えてきたそうである。そのことを知り「成るほど」と思った。いま現在の彼が選択しているのは王道中の王道であるが、その彼はエモーションを露出し過ぎない処に立ち位置を定めているように思える。それが大人感の源泉となっているに違いない。今回は平田の持ち味をしっかと確認したが、今後どうなって行くかは興味津々ではある。おっと、筋立てを誤ってしまった。本ライブのリーダは田中菜緒子ではないか。彼女は毎年この時期に顔を出していて、今や馴染みの1人だ。前述のように平田に焦点を合わせててしまったため、入りの文脈が前のめりになったが、それもそのはず今回の彼女は平田を如何に引き立てるかに徹していたように思うのだ。因みにこの前々日にVocalのNAMIさんとの手合わせがあったが、後ろに回っていい仕事をすると感心させられたものだ。彼女の演奏は素人さんのようなMCと全く対照的な玄人さんそのものに他ならないと言い切ろう。演奏曲は概ね著名な曲とオリジナルとの半々の構成だ。「Punjab」、「Mine Mine」、「Monochrome」、「Willow Weep For Me」、「Costello」、「Nobody Else But Me」、「Estate」、「Monk’s Birthday」、「I Remember Smile Again」、「My Ideal」。他のメンバーについてちょこっと触れておく。柳沼は来るごとに番付を上げている。それが証拠に微塵も「俺が俺が」に流れずタイトなサポートを絶やすことがない。いま「渋いドラマーは?」と問われれば、「柳沼」と口を滑らせてしまい兼ねないな。そして心身ともに風格すら漂う若井俊也、彼はサウンドの整体師のような存在だ。如何なる状況にあっても体幹の歪みが見当たらない。こういう土台に乗っかていれば、住み心地が悪かろう筈がない。ついでながら「Costello」は珍しく若井のオリジナルで、そのタイトルは世話になった店の名前だという。早速「もっと世話になっている店があるだろう!」という不服申立ての声も聞かれた(笑)。いずれ何かいい土産を持ってくるものと期待しておこう。それはさておき、このライブをLB常連の魚返明未(p)が音楽担当を務めた映画になぞらえて言えば、田中菜緒子の『白鍵と黒鍵の間』に全員ピタリと嵌まっていた。この印象を田中のお国言葉にすると「気分が上がったばい」となるたいね。
(M・Flanagan)