ソウルの春


つい最近韓国で戒厳令が発令されたがクーデターは失敗し民主主義はかろうじて守られた。同じ構図の事件が1979年12月12日に発生した。朴正煕大統領の暗殺に端を発した軍事クーデターである。その反乱軍と鎮圧軍の9時間の攻防を描いた映画である。軍部の熾烈な権力闘争を描いている点では終戦の日を題材にした岡本喜八監督の「日本で一番長い日」と同様の匂いを感じた。タイトルとは裏腹にこの事件の後に訪れる全斗煥、盧泰愚による軍事独裁の長い冬の前奏曲となっている。全編緊張感が張り詰めたまま進行する。史実として結末は知っているのだが「そいつに騙されるな」と叫びたくなる瞬間が多々ある。こんな陰鬱な映画誰が見るのかと他人事ながら心配していたが韓国人の4人にⅠ人が見る大ヒット作となった。その国民意識が今回のクーデターの際立ち上がった市民を押し上げていると感じた。全斗煥を演じたフアン・ジョンミンの迫力が凄い。国民は強いものを支持したがる。現在のポピュリズムにも繋がる危ない傾向である。映画にいちいち教訓を求める必要はないが軍部に権力を与えては絶対ダメである。軍隊は最終的に国民は守らない。沖縄戦を思い出せばわかる。日本でも色々な有事が囁かれ軍事費増大の根拠にされている。餌によっては可愛い子犬が凶暴なハイエナに変質する事もある。