
あまり記憶が定かではないが、周年記念LIVEは、創業10年を迎えた時から始まったように思う。この業界では20年を超えると老舗に分類されるので、威風堂々の四字がよく似合う。他方、吹き荒れる物価上昇の壁が老舗にも苦難を強いているのは周知のとおりである。このやり切れない世相の下で迎えた22周年であるが、今年も練りに練った編成となっており、信念のこもった企画が実現した。なお”Catch 22”は、にっちもサッチモ行かない状態の慣用句、念のため。
4.9 平倉初音(p)伊藤勇二司(b)本田珠也(ds)
冒頭から「このトリオは東京でも見られない」とアナウンスされた。こういう奇跡を数々仕組んできたのがレイジーの軌跡でもある。平倉と伊藤の”初勇ペア”は、昨年の7月に整理整頓の達人として知られる柳沼佑育の推しで初登場し、エビデンスで鯛を釣るような収穫を残していったのは記憶に新しい。この個性派二人と年齢とプロ・キャリアが近似している天下の本田珠也の編成である。それだけで「興味あり」の棒グラフがぐんぐん上がるというものだ。この良好な風向きを味方につけ、リーダー平倉のオリジナルと著名曲のパレードを観戦した。平倉については、初演で躍動感と繊細さのバランスの良さを印象付けられていたが、今回改めて聴いてみて、独特な間の置き方や意表を突く音使いに何度もオゥと反応させられた。彼女のクオリティーを決定づけているスィング感やアウト感に白旗止む無し、この才媛には益々期待が膨らむ。伊藤については、太いナタでぶった切るイメージが強かったが、鉛筆の芯先を研ぐようなデリケートさを持ち合わせていることを間近で確認した。それもこれも珠也が臨機応変なドラミングで目を光らせていたが故の快演だと独断しておく。演奏曲は、「Sea Raccoon」、「Unconditional Love」、「The Jitterbug Waltz」、「But Beautiful」、「Hallucinations」、「Mysterious Apple」、「Theme For Marco」、「Duke Ellington’s Sound Of Love」、「The Song Is You」、「Come Rain Or Come Shine」。それは1St.が終わった合間のことだった、珠也が平倉に語り掛けているのが耳に入った。「But Beautiful」の時、”お袋が歌っているのが聴こえてきてきて、一緒に演奏したよ”。これ、ジーンと来たなぁ。
4.10 松島啓之(tp)平倉初音(p)伊藤勇二司(b)本田珠也(ds)
前日の熱が冷めぬまま、松島の参加で熱攻めに拍車がかかりそうだ。いきなり余談二席。一つは自分ちではトランペットを能く聴くが、ライブでは驚くほど聴く回数が少ない。この不均衡が「松島来たる」に心弾ませる一因になっているということ。もう一つは、これからジャズを聴こうとする人には、松島を薦めたら良いのではないかと常々思っていたということで、これは松島の演奏が取っ着き易いということではなく、ジャズのエッセンスを感じさせる演奏をするという意味合いだ。マイルスで言えば’50年代であって、「アガ・パン」は入門にならない、バップなのである。以上で一人相撲の終了。さて、この日も松島を楽しみにしているお客さんが詰めかけていた。華のある演奏家は少なくないが、それに加え松島には音色に華がある。そんな松島が加わるこの4人の組み合わせも初めてだという。オープニングから松島が駆け抜け、珠也ががっちり並走する。平倉と伊藤が身を尽くして喰らいついている。たちまち初めてとは思えない結束力生まれ、全員が22周年をサウンドで祝福していると少し無理筋に解釈した。Up Tempoの興奮とBalladの深々しさとが織りなす入魂の演奏の数々、これを最良のLIVEと言わず何と言う。演奏曲は「Back To Dream」、「Fiesta Mojo」、「Skylark」、「Ugetsu」、「You Are My Everything」、「Punjab」、「My One&Only Love」、「Fun」、「Up Jumped Spring」。
現存するミュージシャンで老舗レイジーの殿堂入りを果たしているのは、周年LIVEで重責を担ってきた米木康志、池田篤、本田珠也の各位だという。噂では遠からず松島の椅子が用意されるらしい。今のところ厳格なRー50規定により若手・中堅にその資格はないが、平倉、伊藤のようにレイジー延命の新薬として効能あるプレイをしていれば、チャンスは虹の彼方に見えるだろう。さて、22周年LIVEは粒ぞろいの快演により”Catch 22”に優勢勝ちをして幕を閉じた。来年の標語もまた「Make Anniversary Great Again」になっているそうだ。(M・Flanagan)
